
症例29
【症例】40歳代男性
【現病歴】2日前から胃痛あり。徐々に周期的な激痛に変化した。本日になっても激痛があるため受診。
【既往歴】なし
【身体所見】意識清明、BT 38-39℃台あり、腹部:膨満、やや硬、右下腹部に圧痛あり。
【データ】WBC 8500、CRP 23.26
画像はこちら
小腸の軽度拡張、液貯留、ニボー像を認めています。
閉塞機転はないでしょうか?
下腹部を見ると、回腸末端に3層構造を保った壁肥厚像を認めています。
腸管を追うと、この壁肥厚が目立つ部位の口側で小腸が拡張していることがわかります。
つまり、壁肥厚が目立つ回腸末端が閉塞機転とする小腸閉塞を来しているということです。
またこの辺りの小腸の造影効果が目立ちます。
結腸と異なり、小腸の場合は、このような3層構造を保った壁肥厚を見た際に、安易に、
「小腸炎でしょう」
としてはいけないのでした。
小腸の3層構造を保った壁肥厚、すなわり、target water パターンを見た際には以下の様な疾患を考えなければならないのでした。
今回はどうでしょうか?
症例4で見たようなアニサキス小腸炎でしょうか?
それとも回腸末端にも認めているので、エルシニアによる回腸末端炎でしょうか?
だとすると回腸末端に留まって欲しいところです。今回は回腸に割と広範に壁肥厚を認めています。
さらに、炎症の主座は回腸末端や盲腸にありそうです。
このような場合に考えなければならない(必ず除外しなければならばい)のが、あれですね。
あれです。
同定ブートキャンプまで開催したやつです。
そう、虫垂です。
非常に見えにくい盲腸から出る非常に見えにくい虫垂らしき構造を同定することができ、その周りに低吸収を認めており、液貯留があるように見えます。
このあたりが最もぐちゃぐちゃしていて何が何だか分からない状態です。
このような所見を見た際に考えなければならないことは、
「虫垂炎があるのではないか?さらに、穿孔しているのではないか?」
ということです。
と考えると、
- 回腸末端の壁肥厚が目立つ→虫垂炎(穿孔)の炎症が波及したから
- 虫垂の周りに液貯留のようなものがある→穿孔して局所的に膿瘍形成しているから
その目で見ると、
直腸膀胱窩(Douglas窩)に腹水を認めていますが、辺縁にわずかに造影効果を認めています。
つまり、虫垂炎穿孔→膿瘍形成、腹膜炎を起こしているのではないかと考えることができます。
冠状断像を見てみましょう。
虫垂と思われる構造が、盲腸から出ていることがわかります。
周囲は炎症所見が著明で、ぐちゃぐちゃで非常に見えにくいですね。
また左小腸は拡張所見を認めています。
一方で、右下腹部を中心に、壁の造影効果が著明に目立ちます。粘膜側もですが、漿膜側にも造影効果があるように見えます。
なぜこのようなことになっているのでしょうか?
癌性腹膜炎の症例28で見たような造影効果とも言えます。
結果的に虫垂炎穿孔による汎発性腹膜炎であった症例17の下腹部ののっぺりとした小腸で見たような造影効果とも言えます。
今回も同じようなことが起こっていると考えることができます。
つまり、左上腹部の小腸拡張は、肥厚した回腸を閉塞機転とした小腸腸閉塞。
右下腹部を中心とした造影効果が目立つ小腸は、汎発性腹膜炎波及による漿膜側造影効果+麻痺性イレウス。
が起こっていると考えることができます。
診断:虫垂炎穿孔による汎発性腹膜炎疑い(およびそれに伴う麻痺性イレウス、および回腸への炎症波及による壁肥厚を閉塞機転とした小腸腸閉塞)
※外科で手術となりました。
~~~~~~~~~~~~~~~手術記録より抜粋~~~~~~~~~~~~~~~~~
下腹部から右下腹部を中心に茶色の膿汁腹水を認めた。
右下腹部の小腸は腹壁と強固に癒着しており、剥離困難であったため、可及的に腹水を吸引して開腹移行とした。
(中略)
回腸末端から上部空腸までほぼ腸管浮腫を認め、腸間膜と腸間膜の間隙に白苔、膿汁腹水が貯留していた。
虫垂と思しき組織は盲腸背側にべったりと張り付いており、腫大はしていなかった。
全小腸を確認したが明らかな穿孔点などは指摘できず、虫垂が破裂して虚脱したと考え、虫垂切除を行う方針とした。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
→その後、病理においても虫垂の穿孔が確認されました。
その他所見:腎嚢胞あり。
症例29の動画解説
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。

やっぱり腹膜炎の腸閉塞は苦手です
リンパ節腫脹はめだつので炎症があるんだと気づけるのでその辺りから診断に迫れるでしょうか
難しいですね
アウトプットありがとうございます。
腹膜炎は難しいですね(^_^;)
>リンパ節腫脹はめだつので炎症があるんだと気づけるのでその辺りから診断に迫れるでしょうか
リンパ節腫脹からも迫れますが、やはり腸管の浮腫や脂肪織濃度上昇を手がかりに原因を探していく感じですね。
「忘れてはいけないフリーエアと虫垂」ということで読影の際、忘れないように気をつけています。
アウトプットありがとうございます。
>「忘れてはいけないフリーエアと虫垂」
そうですね。
救急では、「女性を見れば妊娠と思え」と言われますが、
「腹痛を見れば虫垂炎と思え」「右下腹部に炎症があれば虫垂炎と思え」「よく分からない腹膜炎を見たら虫垂炎と思え」ですね。
思えというか除外しろと言ったほうがいいかもしれませんが。
回腸末端炎からの炎症波及、麻痺性イレウスだと飛びついてしまいますね。
今回は虫垂が破綻しすぎて難しかったです。
アウトプットありがとうございます。
今回は虫垂炎の同定はおっしゃるように難しいですね。
回腸末端炎がそこまで激しくなることは通常ないので、虫垂炎や憩室炎の穿通、穿孔、女性の場合は卵巣卵管膿瘍やその破綻などをまずは考えなくてはですね。
何とか正解出来ました、虫垂炎はやはり怖いですね。
虫垂炎穿孔では今回のようにfree airを認めず、膿瘍形成する状況が多い気がしますけど、どうしてなのでしょうか?ふと疑問に思い質問させて頂きました。
アウトプットありがとうございます。
https://i1.wp.com/xn--o1qq22cjlllou16giuj.jp/wp-content/uploads/2019/01/acute-appendicitis13-1.png?w=653&ssl=1
虫垂が盲腸の背側で後腹膜に固定されて頭側に向かうものが多いためと考えられます。
そのため穿孔しても周りに被包化されることが多いですね。
関連記事
https://xn--o1qq22cjlllou16giuj.jp/archives/16447
丁寧に解説して頂きまして誠にありがとうございます、またひとつ疑問が解決しました!
今後ともよろしくお願いいたします。
腹膜炎により漿膜側から小腸が造影されるというのは新知見でした。腹水も造影されていると膿性が疑われるのですね。
アウトプットありがとうございます。
>腹膜炎により漿膜側から小腸が造影されるというのは新知見でした。
私も最初知った時は、そんなこともあるのかと思いました。
腸管の拡張があり、今回のようなのっぺりとした造影効果を見た場合は、膿性に限らずですが、腹膜炎を鑑別に挙げることが重要です。
>腹水も造影されていると膿性が疑われるのですね。
造影されているのは腹水に接している腹膜ですね。
いつもお世話になっております。
復習段階のため、質問が遅いですが宜しくお願いします。
今回はあまり腸管拡張が目立たず、最初からイレウス・腸閉塞だ!とは思いませんでした。個人的にはどちらかというと、液体貯留と漿膜側の壁の造影増強が目立つ所に気付いてから、麻痺性イレウスの付随かなぁという流れでした(^_^;)
一点ご質問です。
虫垂炎、回盲部炎と画像診断されて、実際は虫垂腫瘍、回盲部腫瘍でした、というケースも稀ながらあると思いますが、今回の症例も含め、「腫瘍も鑑別」とレポート上書いた方が良いような見極めポイントはございますでしょうか?
宜しくお願い致しますm(_ _)m
アウトプットありがとうございます。
>今回はあまり腸管拡張が目立たず、最初からイレウス・腸閉塞だ!とは思いませんでした。個人的にはどちらかというと、液体貯留と漿膜側の壁の造影増強が目立つ所に気付い
素晴らしいですね。
腸閉塞としては、それほど腸管の拡張が目立たないなという印象を持てることが非常に重要です。
>今回の症例も含め、「腫瘍も鑑別」とレポート上書いた方が良いような見極めポイントはございますでしょうか?
今回のように穿孔している場合に、毎回腫瘍もと記載するのは好ましくないと思います。
腫瘍が穿孔の主な原因になるというわけではないためです。
むしろ腫瘍を疑うのは虫垂炎の症状がないのに、毎回虫垂の拡張が目立ったり、虫垂の壁肥厚が目立ったりするケースですね。
腹部TIPSでこんな症例があります。まだでしたら是非チャレンジしてみてください。
https://imaging-diagnosis.com/view/b3DAvJsc
まさかの大外れでした。
ここまで激しいと虫垂炎かどうかすらわらかなかったです(^^;
メルマガについて
息子さんはいかにも野球少年、という感じですね。
是非をこれを機に?猛勉強されて文武両道を目指してください!
アウトプットありがとうございます。
おっしゃるように激しいので虫垂炎とは一目ではわからないのですが、右下腹部に炎症所見が強い場合は常に虫垂炎の除外が必要なのでした。
>メルマガ 是非をこれを機に?猛勉強されて文武両道を目指してください!
先日コワーキングスペースに連れて行って少し離れたところで私は仕事をして息子は勉強しているはずだったのですが・・・・
途中で観に行ったらガッツリyoutubeを楽しんでいましたorz…
また大外ししました!回盲部が重積しているようにみえ想像が膨らんでいってしまいました。
あとから考えると違和感を持った部分が多数あったのに初めに思いついた重積から離れられず…。実は虫垂炎という落とし穴をこの症例で経験できてとてもよかったです!
アウトプットありがとうございます。
回盲部は粘膜下脂肪増生を認めることがしばしばあり、一見重積様に見えることがあるので要注意ですね。
関連
https://xn--o1qq22cjlllou16giuj.jp/archives/38078