
症例31
【症例】80歳代 女性
【主訴】腹部膨満感
【現病歴】他院にて肝硬変にてフォロー中。1週間前から便秘、腹部膨満感、臍部腫瘤あり受診となる。
【既往歴】肝硬変
【身体所見】腹部膨隆あり、皮膚変化なし、疼痛なし。
【データ】WBC 4600、CRP 0.25
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小腸の拡張、液貯留、ニボー像を認めています。
閉塞機転はないでしょうか?
臍部に腸管の逸脱・嵌頓を認めています。
嵌頓した腸管の周囲にはヘルニア水を認めています。
ヘルニア水とは?
腸管が外ヘルニアとして嵌頓する
→静脈閉塞のためにうっ血がおこる
→血管壁の透過性が高まり浮腫となる
→腸管外へ液体が漏出する
→ヘルニア嚢に液体が貯留する。
この液体をヘルニア水といいます。
ですので、嵌頓が起こって静脈閉塞が起こっている事を示唆する所見とされます。
同部を閉塞機転として小腸閉塞を来していることがわかります。
診断:臍ヘルニア嵌頓による小腸腸閉塞
※用手的整復を試みたが還納できず、手術となりました。臍ヘルニア根治術(単純縫合閉鎖)が施行されました。腸管壊死は認めず腸管切除は行われておりません。
その他所見:
- 前縦隔嚢胞もしくはリンパ節あり。
- 左胸膜石灰化あり。
- 肝硬変あり。左葉S3に早期濃染部位あり。要精査。
- 脾腫あり。
- 脾腎シャントあり。
- 右副腎石灰化あり。
- 門脈内血栓疑い。
- 腹水貯留あり。
- 左大腿骨頸部術後。
- 動脈硬化あり。
症例31の動画解説
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。

救急腹部撮影においてダイナミック造影が行われている場合、全体像の把握のために、はじめは平衡相から読影するのがよいのでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
単純がある場合はまずは単純からですね。
あとは、今回の環境ではできないので恐縮ですが、全部の相をまとめて同期させてスクロールしていきますね。
単純で臍部がなかったので戸惑いました。腹水も多く腫瘍の播種かなと思いましたが、既往になく、腹壁瘢痕で良いのか?ここまでひどくなるものなのか?迷いながら回答しました。こんなにひどくなるものなんですね。ありがとうございました。
アウトプットありがとうございます。
>単純で臍部がなかったので戸惑いました。
そうですね。この単純は胸部で撮影されたものなのでしょうね。
>既往になく、腹壁瘢痕で良いのか?ここまでひどくなるものなのか?迷いながら回答しました。
臍ヘルニアですので、既往はなくても起こります。
臍ヘルニアに限らず外ヘルニアが嵌頓するとこのような腸閉塞になることはありますね。
いつも貴重な症例ありがとうございます。自分も肝硬変による難治性腹水患者が臍ヘルニア発症した事例を経験しました。
機序としては腹水による持続的な腹圧上昇に伴って腹壁が脆弱となり、ヘルニア門が開く
という解釈でよかったでしょうか。
アウトプットありがとうございます。
>機序としては腹水による持続的な腹圧上昇に伴って腹壁が脆弱となり、ヘルニア門が開くという解釈でよかったでしょうか。
その機序も考えられますが、臍ヘルニアは肝硬変でない方でも起こりますのでそれだけではないと考えられますね。
腹部全体が膨満しているので、自分のイメージよりは臍部の膨隆があまり大きくなかったです。肛門側の回腸の虚脱が、よく確認できないのがもどかしかったです。
アウトプットありがとうございます。
>自分のイメージよりは臍部の膨隆があまり大きくなかったです。
閉鎖孔ヘルニアや大腿ヘルニアのようにわずかな範囲の嵌頓もあるので、膨隆部の大きさは腸閉塞の規模には比例しません。
>肛門側の回腸の虚脱が、よく確認できないのがもどかしかったです。
わずかな範囲の嵌頓ですので、口側腸管、肛門側腸管が見えにくい(追いにくい)かもしれませんね。
いつも症例ありがとうございます。
副所見ですが、SMVが脾静脈と合流する直前~合流後のPV周囲が、輪状の膵より低吸収域に違和感を感じました。
副所見欄をみると門脈内血栓疑いとあり、炎症等による周囲の浮腫性変化なのでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
肝硬変に続発した門脈内血栓が疑われます。
関連
https://xn--o1qq22cjlllou16giuj.jp/archives/21432
お世話になります。
腸管壁の造影効果の減弱は、門脈相でみるのが普通なのでしょうか。
「腸管壁は動脈相でよく見えやすい」とどこかで教えてもらった記憶があり、
いつも(動脈相があるときは)動脈相で壁の造影効果を見ていました。
この見方は、間違っているでしょうか。
本症例の場合は、動脈相ではヘルニア内小腸壁は造影効果が減少しているように見えます。
腸管の造影効果は、どの造影タイミングで評価するのがよいのでしょうか。
アウトプットありがとうございます。
>本症例の場合は、動脈相ではヘルニア内小腸壁は造影効果が減少しているように見えます。
腸管の造影効果は、どの造影タイミングで評価するのがよいのでしょうか。
おっしゃるように、動脈相で周りの腸管と比較することで虚血の有無を判断します。
その上で、平衡相でも周りよりも落ちている場合は、虚血〜壊死が示唆されます。
今回は嵌頓しており、ヘルニア水も出ており、平衡相でも周りの腸管と比較して、同一くらいか少し造影効果が弱い印象ですので、少なくとも虚血がありそうです。
動脈相では正常腸管との造影効果がより明瞭です。
動画内では「少し落ちているかもしれないが、明らかな造影不良はない」としています。
壊死と判定するような造影不良はありませんが、これらの所見から、「造影不良が少しありそうだ」とした方が良いかも知れません。
副所見の「左葉S3に早期濃染部位あり」は73-75/243の肝辺縁の部分のことでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
おっしゃるとおりです。そこです。恐らく偽病変なのでしょうけど、MRIでも精査したいですね。
腸閉塞を疑った場合で、腹部手術歴が無い場合は要注意ですね。
以前の失敗をふまえて鼠径ヘルニアと昆布などの繊維豊富な食物摂取歴を確認していましたが、今回のように臍ヘルニアもあり得ますね。
アウトプットありがとうございます。
外ヘルニア、中でも今回の臍ヘルニア、鼠径ヘルニア、大腿ヘルニアに注意ですね。
これらは割と気づきやすいですが、中でも閉鎖孔ヘルニアには注意ですね。
もともと腹水のある方だと、腹部膨満という主訴では初動が遅れそうです。今回もL/Dが動いている訳でもないですし、しっかりした診察や情報収集は大事だな、と改めて感じました。
アウトプットありがとうございます。
そうですね。もともと腹水があり腹部膨満がある方ですとCT撮影まで行かないこともありそうですね。
臍部腫瘤ありという問診と身体診察が今回のキーとなりそうですね。
いつも有難うございます。
ヘルニア嚢の中の腸管外にエアーがあるようにみえるのですが、脂肪織でしょうか。
ご教示お願い申し上げます。
アウトプットありがとうございます。
横断像で一見そのように見えるのですが、冠状断像で確認するとこのエアーは外と繋がっており、お臍の位置だからなのか皮膚がここだけたわんでいるというか、変形していてこのように見えています。