
症例39
【症例】40歳代女性
【主訴】上下腹部痛
【現病歴】2日目から下腹部痛あり。夜間は痛みで眠れなかった。昨日より上腹部痛と下痢が出現。臥位で痛みは軽快したため、休んでいた。本日になって臥位でも立位でも痛みが強くなってきたため救急要請。
【既往歴】子宮内膜症
【身体所見】部:平坦・軟、左上下腹部に圧痛あり、反跳痛あり。
【データ】WBC 21800、CRP 26.78
画像はこちら
CT
MRI(4日後)
小腸の拡張および液貯留、ニボー像を認めています。
左下腹部で3層構造を保った小腸の壁肥厚を認めており、周囲炎症所見が目立ちます。
なぜこのような3層構造を保った壁肥厚を認めているのでしょうか?
このように3層構造を保った壁肥厚をtarget water patternと言い、小腸の場合は以下の様な疾患を鑑別に挙げないといけないのでした。
今回は絞扼性腸閉塞を疑うようなclosed loopの形成は認めておらず、炎症がありそれが波及したことが疑われます。
その炎症の原因はなにでしょうか?
左卵巣および近接して嚢胞性病変あり、卵管の拡張が疑われます。
卵巣卵管膿瘍があり、そこから腹膜の肥厚を認めており腹膜炎が疑われます。
CTで卵巣卵管膿瘍の診断は難しいですが、左付属器あたりに炎症の主座があり、骨盤腹膜炎に至っているということがわかれば十分です。
抗生剤加療され、4日後にMRIが撮影されました。
左卵巣に内膜症性嚢胞を疑う所見を認めています。
また左卵巣から卵管にかけて一部でDWI高信号、ADCの信号低下を認めており、やはり卵巣卵管膿瘍が疑われます。
診断:左卵管卵巣膿瘍(疑い)+腹膜炎(およびそれに伴う麻痺性イレウス)
後日待機的に腹腔鏡下左付属器切除術が施行されました。
病理診断はやはり左卵管卵巣膿瘍で、悪性所見は認めませんでした。
また、骨盤腹膜炎の原因としては、淋菌、クラミジアが挙げられますが、今回はいずれも陰性でした。
その他所見:
- 腎嚢胞あり。
- 子宮筋腫あり。
- 腹水貯留あり。
- 左内膜症性嚢胞あり。
症例39の動画解説
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。

卵管卵巣膿瘍の原因として、子宮内膜症の癒着を考えましたが可能性はあるでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
その可能性はありますね。
左卵巣の嚢胞性腫瘍からの化学性腹膜炎、波及による腸炎、イレウス状態まではなんとか指摘できました。
T1信号で膿瘍形成や内膜症性嚢胞、出血成分の鑑別は難しいですね。形や脂肪成分、辺縁の染まり方などから判断すると理解はしていますが、いつも頭がこんがらがってしまいます。
アウトプットありがとうございます。
>左卵巣の嚢胞性腫瘍からの化学性腹膜炎、波及による腸炎、イレウス状態まではなんとか指摘できました。
これで十分です。
>T1信号で膿瘍形成や内膜症性嚢胞、出血成分の鑑別は難しいですね。形や脂肪成分、辺縁の染まり方などから判断すると理解はしていますが、いつも頭がこんがらがってしまいます。
そうですね。膿瘍形成の場合は、通常見えない卵管の管状構造が見えないかや、DWIでの高信号/ADCの信号低下がないかなどを参考にしますが、難しいこともありますね。
なんらかの炎症による腹膜炎とはわかりましたが、それ以降が難しかったです。
DWI高信号は膿瘍を考えるのでした。勉強になりました。
アウトプットありがとうございます。
>なんらかの炎症による腹膜炎
中でも婦人科系が怪しいというところまで推測できたらOKですね。
>DWI高信号は膿瘍を考えるのでした
そうですね。部位を問わず膿瘍は高信号になります。
いつもありがとうございます。
左卵巣癌+腹膜播種+癌性腹膜炎としてしまったのですが、病歴やMRI所見からは膿瘍の方が考えやすいのでしょうか。
アウトプットありがとうございます。
そうですね。炎症反応が上がっていたり、短期の経過などからも膿瘍の方が考えられます。
「腸閉塞ブートキャンプ」症例でなければ腸閉塞を見逃すところでした(^^;
画像からは絞扼の可能性もあるため、反省です…
メルマガについて:僕は車移動が多く、盆休み期間中は渋滞・事故が多く(移動的にも救急的にも)大変でした(;’∀’)
暑いですが、球児たちには精一杯プレーしてほしいです!
アウトプットありがとうございます。
>「腸閉塞ブートキャンプ」症例でなければ腸閉塞を見逃すところでした(^^;
今回は厳密には腸閉塞ではなくて麻痺性イレウスとなります。
今回は左に炎症所見が強く、卵巣や卵管を疑う所見を認めていたため、婦人科疾患を疑いましたが、右下腹部の場合は常に虫垂炎の破綻も考えなければならないのでした。(動画内でその点触れているかなと思って見直してみましたが触れていませんでしたのでこちらに記載しています。)
>僕は車移動が多く、盆休み期間中は渋滞・事故が多く(移動的にも救急的にも)大変でした(;’∀’)
お盆期間に巻き込まれたということですね・・・(^_^;
うちの息子も塾帰りに花火帰りやコンサート帰りに巻き込まれることがあるのでお気持ちよく分かります。
>暑いですが、球児たちには精一杯プレーしてほしいです!
甲子園で旋風を巻き起こした島根の大社高校ですが、ただいま9回裏で大変厳しい状態です…。
応援がえぐいです。
動画のMRI部分の編集技術がすごいですね!
子宮左側に隣接した液貯留は、内膜症などの癒着で分布に偏りのある腹水かと思ってしまいました。拡張した卵管なんですね。
小腸拡張について質問があります。CT axial 98〜103/136の左腹側で浮腫性壁肥厚によるbeak signがあり、その部分から口側では単純性腸閉塞。そのほかにも軽度拡張・液貯留のある腸管は麻痺性イレウスあり。
結論としては、単純性腸閉塞+麻痺性イレウスと判断したのですがどうでしょうか?
(病態のメインではないのでこだわる意義が乏しいかもしれませんが…)
アウトプットありがとうございます。
>動画のMRI部分の編集技術がすごいですね!
ありがとうございます。動画編集ソフトに付いている機能をフル活用しました。
>子宮左側に隣接した液貯留は、内膜症などの癒着で分布に偏りのある腹水かと思ってしまいました。拡張した卵管なんですね。
おっしゃるようにこの液貯留自体は壁の造影効果や肥厚も目立ちませんし、偏在した腹水と判断しても仕方ないと思います。(ただ偏在した腹水にしては場所は非典型的ですが。)
>小腸拡張について質問があります。CT axial 98〜103/136の左腹側で浮腫性壁肥厚によるbeak signがあり、その部分から口側では単純性腸閉塞。
このあたりで壁肥厚を免れているところがあるのでそこがbeak signだという意味だと思いますが、その逆にも再び壁肥厚を認めるため、この部分だけ距離の問題で炎症から免れていると判断するべきと考えます。
動画解説しました。
※動画解説をした後、改めて画像を見るともう一つ腹側の小腸のことをおっしゃっているのかなと思いました(^_^;。ただ、いずれにしろ同じ説明でこの部分だけ距離の問題で炎症から免れていると考えられます。
つまりこういうことです。
https://diagnostic-imaging-bootcamp.com/wp-content/uploads/2025/10/case39a.png
動画や画像での解説まで追加していただき大変恐縮です。
もう一つ腹側の小腸を指していました。腸閉塞症例29での診断 “虫垂炎穿孔による汎発性腹膜炎疑い(およびそれに伴う麻痺性イレウス、および回腸への炎症波及による壁肥厚を閉塞機転とした小腸腸閉塞)” と類似した麻痺性+単純性の状態かと考えていました。
壁肥厚が非連続的で場所に依存(左骨盤部に目立つ)ことから原因部位を同定するのが重要な症例ですね。ありがとうございました!