
症例6
【症例】50歳代女性
【主訴】下腹部痛
【現病歴】本日朝より下痢2回あり。 昼食を食べた後、嘔吐3回、下腹部痛認め、症状軽快せず、当院救急搬送。
最終食事:本日昼(生ものなし)。 昨日の夜、刺身を食ぺたとのこと。周囲に同様の症状の者なし。普段、排便は毎日あるとのこと。
【既往歴】卵巣癌術後(8年前に当院で卵巣摘出)
【身体所見】 意識清明、腹部:平坦、腸蠕動音→、やや硬、下腹部自発痛・圧痛あり、反跳痛あり、筋性防御なし。
【データ】WBC 16000、CRP 0.01
画像はこちら
広範に小腸の拡張、液貯留、ニボー像を認めています。
術後であり、癒着を疑うような閉塞機転はないでしょうか?
今回もsmall bowel feces sign(小腸内糞便サイン)を認めており、その先に閉塞機転を示唆するサインでした。
このサインが最も目立つ部位より先端は少し追いにくいですが、横断像では左側に繋がっていることが確認でき、その後の腸管は虚脱していますので、同部が閉塞機転となっていると考えられます。
この様子は冠状断像でも確認することができます。
診断:癒着に伴う(機械性単純性)小腸閉塞
※保存的に加療され、退院となっています。
その他所見:
- 肝嚢胞あり。肝血管腫あり。
- 腎嚢胞あり。
- 腹水貯留あり。
- 腹腔ポート留置あり。
症例6の動画解説
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。

一見loopを形成しているように見えることもありますが、腸間膜の浮腫やbeak signの数がいつもヒントになり助かります。
その他所見として、肝血管腫はいかがでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
>腸間膜の浮腫やbeak signの数がいつもヒントになり助かります。
そうですね。closed loopの確認にそれらが非常に重要ですね。
>その他所見として、肝血管腫はいかがでしょうか?
ありがとうございます。複数ありますね。
糞便サインより肛門側の小腸に浮腫状の壁肥厚(矢状断48/91付近)を認めますが、前回(症例2)同様、「癒着による腸閉塞により何らかの理由で血流が少なくなっている」と考えて良いのでしょうか?
また、このように他の腸管が浮腫を呈する症例はよくあるのでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
>糞便サインより肛門側の小腸に浮腫状の壁肥厚(矢状断48/91付近)を認めますが、前回(症例2)同様、「癒着による腸閉塞により何らかの理由で血流が少なくなっている」と考えて良いのでしょうか?
横断像でいうと、71 / 88あたりですね。
癒着を生じている腸管付近ですので、腸管内圧が上がったりしており、その影響なのだと考えられますが、正確な機序はわかりません。
>また、このように他の腸管が浮腫を呈する症例はよくあるのでしょうか?
他の腸管というか今回も閉塞機転の先なので、全く別の腸管というわけではありません。
症例2と似たような機序なのだと思います。
閉塞機転の先に壁肥厚を認める腸管(アニサキスなどではなく、癒着などで)はこれまであまり注意してみたことはありませんでしたが、意外とあるのかもしれませんね。残りの症例でもチェックしてみてください。
small bowel feces サインはすぐ分かったんですが動脈チェックするのを忘れました。次こそは。
アウトプットありがとうございます。
動脈チェックはあくまで系統的読影なので、small bowel feces サインがわかり閉塞機転がわかれば問題ありません。
closed loopを探して時間を浪費しましたが頑張れば正解にたどり着けますね。他のかたのコメントで血管見忘れたとかあって良い注意喚起になります。
ありがとうございました。
アウトプットありがとうございます。
>closed loopを探して時間を浪費しましたが頑張れば正解にたどり着けますね。
頑張って正解にたどり着けたようでよかったです。
>他のかたのコメントで血管見忘れたとかあって良い注意喚起になります。
閉塞機転に気づけたならOKですが、SMA,SMVのチェックも頭に入れておきましょう。
閉塞起点肛側の小腸浮腫が気になり、それが原因で閉塞したと考えてしまいました。
機序が逆でした
ところで、ごく狭い範囲の粘膜下浮腫と少量の腹水しか認めない小腸アニサキスはあり得ますか?
アウトプットありがとうございます。
>閉塞起点肛側の小腸浮腫が気になり、それが原因で閉塞したと考えてしまいました。機序が逆でした
いずれにせよ単純性の機械性腸閉塞と診断できるはずですので、特に問題ないと思います。
>ところで、ごく狭い範囲の粘膜下浮腫と少量の腹水しか認めない小腸アニサキスはあり得ますか?
ごく狭い範囲というのがどれくらいかにもよりますが、短い場合もあります。
先日見たような腸閉塞を来さないこともしばしばあります。
いつも大変お世話になっております。
今回は一回small bowel feces サインと書いたのち、消して別のことを書いてしまいました。。
どうも癒着による腸閉塞という時の判断がいまいちできていないようです(思えば前々からそうだった気が)。。
頻度としては最も多いということですので、避けては通れないと思い質問いたします。どのような場合に「癒着」による腸閉塞と判断すればよろしいでしょうか。
何卒よろしくお願い申し上げます。
アウトプットありがとうございます。
>どのような場合に「癒着」による腸閉塞と判断すればよろしいでしょうか。
癒着による腸閉塞に特異的な所見があるわけではありません。
手術歴のある方に単純性機械性腸閉塞を見た場合は、癒着性腸閉塞を疑うということです。
今回の症例も癒着で確定というわけではなく、癒着疑いです。
癒着疑いで結果、食餌性腸閉塞だった症例もあります。
重ねたコメント失礼いたします。
「癒着」を疑う腸閉塞・・私もどういった所見が「癒着」っぽいと言えるのかなと疑問に思っていたのでこのコメントを拝見して解決しました。除外的に「癒着」を疑う、までしか画像診断では言えないということですね。
ありがとうございました。
アウトプットありがとうございます。
>除外的に「癒着」を疑う、までしか画像診断では言えないということですね。
この症例についてはそうなります。
ただ、狭窄部位だけでなく周囲に明らかに癒着が目立つ症例もありますので、そういった場合は除外的ではなく強く癒着を疑うことができます。
結果的には合っていたのですが、なかなか閉塞部位の先の消化管は早退的に細くなっているためそれを認識することができなくて、腸管追っかけてきて止まっちゃったけれどこの先はどこだ?と悩んでしまいます。
アウトプットありがとうございます。
>なかなか閉塞部位の先の消化管は早退的に細くなっているためそれを認識することができなくて、腸管追っかけてきて止まっちゃったけれどこの先はどこだ?と悩んでしまいます。
閉塞機転の先の腸管の行方は追えないことがしばしばです。
逆に追えないということはそこが閉塞機転だということです。
卵巣癌術後で腹腔ポートが留置されているので手術の時に腹膜播種があったのかと思いました。
腹水もあるし、肝臓の低吸収域はもしかしたら肝転移かしら、
腹膜播種による腸管狭窄→小腸閉塞症と妄想しましたが、
単純に手術による癒着でよかったのですね。
腹膜播種があると腸間膜の肥厚も見られるのでしょうか。
アウトプットありがとうございます。
>卵巣癌術後で腹腔ポートが留置されているので手術の時に腹膜播種があったのかと思いました。
確かにこの可能性もありますので、考慮する必要はあります。
>腹膜播種による腸管狭窄→小腸閉塞症と妄想しましたが、
単純に手術による癒着でよかったのですね。
腹膜播種があると腸間膜の肥厚も見られるのでしょうか。
そうですね。播種による腸管狭窄の場合は、播種結節が腸管を圧排するので画像で確認できるはずです。
あとは他部位に播種結節を認めたり、腹膜が肥厚したりします。
そういった所見は今回認めていないので素直に頻度が高い癒着をまずは考えるべきですね。
この患者さんは結構腹水貯留していますが、単純性でも腹水が貯留することは珍しくないのでしょうか?
それとも、以前から腹水貯留しているのでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
単純性であっても腹水が貯留することはあります。
腹水貯留→複雑性というわけではありません。あくまで傾向にすぎません。
調べてみましたがこの後のCTはありませんでした。
前のCTは3年前で腹水は認めていませんでした。
ですので、以前から認めているというわけではないようです。
ご指導のお陰で、small bowel fecesを手がかりに閉塞起点を探せるようになってきました。絞扼性を示唆する所見は教科書でよくまとめられてますが、実臨床では癒着性をきちんと癒着性と判断できることも同じくらい大事だなと感じます。まだ読影能力のない自分には、腸管壁の造影効果が保たれているように見えて、closed loopが見当たらなくても、本例のように腹水が溜まったりしてると、実は絞扼性??と不安になってしまいそうです。癒着性を癒着性と言い切るpointはあるでしょうか?それとも、腸管を丁寧に追って、「閉塞起点が一つで造影保たれている」ということに尽きるのでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
>腸管壁の造影効果が保たれているように見えて、closed loopが見当たらなくても、本例のように腹水が溜まったりしてると、実は絞扼性??と不安になってしまいそうです。
確かに今回の症例では、腹水貯留があり、一部腸間膜の浮腫も認めていますので、絞扼性なのではと思ってしまうかも知れません。
ただおっしゃるように、
・small bowel feces signがあり、閉塞機転を同定できる点
・腸管壁の造影効果が落ちているようには見えない点
・腸間膜の浮腫は認めるも同部でclosed loopを疑う所見を認めていない点
・beak signなど閉塞機転を疑う所見を2箇所以上では同定できない点
・さらには手術歴があり癒着のリスクがある点
などから絞扼性ではないと判断できます。
あとはもちろん身体所見や採血データも参考にして判断となりますが。
ご丁寧にありがとうございます。大変勉強になります。残りの症例でトレーニングしたいと思います!
回盲部の回腸の口測が拡張しているように見えるのですが、ここには閉塞はないのでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
拡張した腸管が回盲部と連続する回腸末端と繋がっているように一見見えるのですが、閉塞機転から拡張した腸管を口側に追っていくと繋がっていないことが分かります。
とりあえず実践を考えて、細かいことはさておき、虚血があるかないか、を正解することを目標にしました。今回は正解でした ^_^
また、本例はsmall bowel feces signも限局していて分かりやすかった気がします。症例によっては全体にごちゃごちゃしていて迷うことがあります。
明けましておめでとうございます。そして元旦早々早速アウトプットありがとうございます。
>細かいことはさておき、虚血があるかないか、を正解することを目標にしました。今回は正解でした ^_^
まずはそこが重要ですね。
>本例はsmall bowel feces signも限局していて分かりやすかった気がします。症例によっては全体にごちゃごちゃしていて迷うことがあります。
そうですね。限局している場合はその先に閉塞機転があるのでは?という目安に使えますが、範囲が広いときはより糞便が多いところがヒントになることはありますが、ヒントにならないこともありますね。
今年もよろしくお願いします。
上行結腸の壁肥厚があるように見えたのですが正常範囲でしょうか
アウトプットありがとうございます。
そうですね。特に粘膜下層が目立つ部位があるわけでもなく壁肥厚が続いている状態もありません。
配信当日にトライしてみてさっぱり分からず、今日もう一度見直してみたら、small bowel feces signをきっかけに閉塞している部位を容易に特定できました。以前にこの講座で学んだ画像所見の知識が頭のどこか片隅に保存されていたみたいです笑
アウトプットありがとうございます。
>配信当日にトライしてみてさっぱり分からず、今日もう一度見直してみたら、small bowel feces signをきっかけに閉塞している部位を容易に特定できました。
一度トライしてみて分からない場合は、日を変えてチャレンジしてみると閉塞機転がわかることもありますね。
現場ではそんなことはできませんが、リンク切れ期間も長いこの練習ではそれが可能ですね。
腸閉塞症例ではつい焦ってしまいがちですが、その都度、系統的読影法を思い出していただき、しっかり読影していくと思わぬ所に外ヘルニアを発見できたり、今回のようにsmall bowel feces signを見つけられることが多いです。
系統的読影を進め、small bowel feces signを手がかりに閉塞起点にたどり着くことは割と容易で、ささやかながら成長を感じました。
ただ、閉塞機転の病態については、自分はこのように書いてしまいました。
「 典型的なbeak signというよりは、その肛門側腸管が層構造と造影効果を保った壁肥厚と内腔狭小化を来たしているので、比較的範囲の狭い腸アニサキス症かなと思いました。しかし卵巣癌の腹膜播種再発で小腸浸潤を来たしたとしてもこのように見える可能性はあるかと思います。 」
個人的な感覚として、癒着ならもっとこうパキッと明瞭なbeak signが見えることが多いように思い、アニサキス症などに軍配を上げてしまったのですが、これでも癒着として良いのですね。
アウトプットありがとうございます。
>比較的範囲の狭い腸アニサキス症かなと思いました。
少し症例4で経験したアニサキスに引っ張られているかも知れませんね(^_^;
>しかし卵巣癌の腹膜播種再発で小腸浸潤を来たしたとしてもこのように見える可能性はあるかと思います。
その可能性は常に考える必要があり、この症例でもそう(播種による癒着)ではないとは言い切れません。
>癒着ならもっとこうパキッと明瞭なbeak signが見えることが多いように思い
そのように明瞭にbeak signが見える症例もありますが今回のように「この先どこいった?」と思ってしまう症例もあります。
やや無理矢理ですが、冠状断像の15/65あたりはbeak signにも見えますね。
あと、アニサキス症はやはり問診が大事ですね。
勉強になりました。
ありがとうございます。
引き続きよろしくお願い致します!
上の方と同じように小腸壁肥厚による通過障害と考えてしまいました。
初めての症例や所見(症例4のアニサキス)を見た後だと、いままで有意としていなかったものまでその疾患に当てはめてしまう現象にいつも落ち入ります。
今回の刺身の食歴についても、アニサキス小腸炎ぽい→刺身が原因かも!とはなっても、刺身→アニサキスと考えるほど特異的な情報でもないですもんね。
素直な目で画像を読めるようになりたいです…
アウトプットありがとうございます。
>初めての症例や所見(症例4のアニサキス)を見た後だと、いままで有意としていなかったものまでその疾患に当てはめてしまう現象にいつも落ち入ります。
私もたまにやります。引っ張られることはありますよね(^_^;
アニサキス症の場合は問診も大事ですし、症例4のように腸閉塞としてはそれほど目立たない(症例4はむしろ拡張が目立つ方)症例が多いです。