
症例35
【症例】70歳代 男性
【主訴】腹部膨満、嘔吐
【現病歴】昨日より腹部膨満感出現。本日増悪し、仙痛出現。嘔吐あり、受診。
【既往歴】糖尿病、胆摘後
【身体所見】BP 149/80mmHg、HR 74/min、BT 35.9℃、腹部:膨満、軟、圧痛なし。腸雑音減弱あり。上腹部正中切開瘢痕あり。
【データ】WBC 13500、CRP 1.72
画像はこちら
小腸の拡張、液貯留、ニボー像を認めています。
閉塞機転はないでしょうか?
今回の症例ではsmall bowel feces signは認めていません。
腹部正中部よりやや左側にbeak signを認めており、同部が閉塞機転であることがわかります。
癒着や何か索状物が同部にあり、それが原因で口側の腸管が拡張していることが推測されます。
診断:(癒着もしくは索状物による)機械性単純性腸閉塞
※保存的にされたのですが、症状が改善せず、手術となりました。
~~~~~~~~~~~~~手術記録より抜粋~~~~~~~~~~~~~
前回の正中創に沿って腸管が広範に癒着あり。
癒着剥離後に腹腔内を観察するとTreiz靱帯出てすぐの腸管が腸間膜ごと180度捻転している状態だった。
癒着剥離したことによって容易に腸管のねじれは修復できた。
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ということで、もう一度画像を見直してみましょう。
beak signよりも肛門側の腸管は前腹壁にべったりくっついていることがわかります。
またTreitz靱帯後の空腸はすぐに右側に向かっていることが確認できます。
腹壁に癒着した腸管を軸に、Treitz靱帯出てすぐの空腸が左側から右側に捻転していたということです。
結果的に、単なる癒着や索状物による腸閉塞ではなかったということです。
但し、clsoed loopを形成した絞扼性腸閉塞ではありません。
その他所見:
- 冠動脈石灰化あり。
- 肝嚢胞あり。
- 左腎結石あり。
- 少量腹水あり。
症例35の動画解説
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。

左の腸管(腸管膜)にまたがれることによって、またがれた部分が圧迫されたと言うことでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
そうですね。またがれることによってbeak signを形成していた部位が圧迫されていたのだと考えられます。
炎症は弱いものの、拡張末端部だったので正中〜臍部での癒着性を考えました。
同時に幽門部での炎症所見と十二指腸の走行に疑問は感じましたが、回転異常では無さそうだし、病的意義が ??? 状態でした。
捻転の発想がありませんでした。
アウトプットありがとうございます。
>拡張末端部だったので正中〜臍部での癒着性を考えました。
素晴らしいですね。私は言われてみれば・・・と手術記録を見て気づきました(^_^;)
>同時に幽門部での炎症所見と十二指腸の走行に疑問は感じましたが、回転異常では無さそうだし、病的意義が ??? 状態でした。
幽門部は正常でも壁が厚いことがあるので注意が必要ですね。
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https://xn--o1qq22cjlllou16giuj.jp/archives/37798
機械的腸閉塞というところまでしかわかりませんでした。今回はきちんと追ってbeakが見えたからclosed loopにしなかったです。今回は拡張していたのでわかりやすかったです。捻転は難しいですね。ありがとうございます。
アウトプットありがとうございます。
>機械的腸閉塞というところまでしかわかりませんでした。今回はきちんと追ってbeakが見えたからclosed loopにしなかったです。
OKです。ここまで診断できたら十分です。
腹水や腸管膜の浮腫も目立たないので絞扼はなさそうだと思いました
アウトプットありがとうございます。
そういった視点が非常に重要ですね!
空腸がトライツ靱帯からすぐ右に行き、中腸回転異常でもないのに?と思い、冠状断で拡張腸管が急に細くなるあたりで(15-25枚目くらい)腸管膜が巻いているようにも見え、ビークは一ヶ所でclosed loopもないので、癒着で本当にいいのかな?と思いつつ提出しました。腸管膜が巻いていると冠状断から解釈して良いですか?
ただ最初全く指摘できなかったビークサインや腸管を丁寧に追うという作業が少しずつできるようになってきたことにこの講座を受講させて頂いて良かったと思います。ありがとうございます。
アウトプットありがとうございます。
>腸管膜が巻いていると冠状断から解釈して良いですか?
おっしゃるように空腸がトライツ靱帯から右に行き、SMAとSMVの位置関係が途中から変わっているので腸間膜のねじれがありそうです。
と思ったら、解説の手術所見以降に記載がありますね。
「腹壁に癒着した腸管を軸に、Treitz靱帯出てすぐの空腸が左側から右側に捻転していたということです。」
ということでおっしゃる通りです。
>ただ最初全く指摘できなかったビークサインや腸管を丁寧に追うという作業が少しずつできるようになってきたことにこの講座を受講させて頂いて良かったと思います。ありがとうございます。
そう言っていただけると良かったです(^^)
残り5症例頑張っていきましょう!