
症例13
【症例】70歳代女性
【主訴】腹痛、嘔吐
【現病歴】15時間程前(昨晩)より腹痛あり。今朝になっても症状の改善なく、嘔吐あり。腹痛も増悪あり、救急外来受診。
【既往歴】子宮癌全摘術後
【身体所見】意識清明、BP 121/72mmHg、P 74bpm、SpO2 100%(RA)、腹部:平坦・軟、腸雑音ほぼ聴取せず。下腹部・心窩部・臍左上に圧痛あり。反跳痛なし。
【データ】WBC 10600、CRP 0.15
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右腹部を中心に小腸の拡張、液貯留、ニボー像を認めています。
そして、腸間膜の浮腫が目立ちます。
この腸間膜の浮腫が一つポイントですね。
右下腹部を中心に腸間膜の浮腫が著明な腸管群が存在し、少し分かりにくいですが、beak signを複数認めていることがわかります。
closed loopを疑う所見です。
扇状に広がる腸間膜の浮腫が著明な腸管群の様子は冠状断像でより明瞭です。
冠状断像においても複数のbeak signを確認することができます。
腸管の造影効果は保たれているように見えます。
診断:絞扼性腸閉塞
※外科コンサルトとなり、手術とな・・・・・・るはずだったのですが、「イレウス」として消化器内科に入院となりました。
一旦症状は落ち着いたのですが、翌日再び腹痛の増強があり、最初のCTから約1日半後に再度CTが撮影されました。
1日半後のCT
closed loopを形成した腸管の口側腸管の拡張は軽度だったのですが、今回は胃〜十二指腸まで拡張を認め、closed loopを形成した腸管も壁肥厚が目立ち、(単純がないので何とも言えないところはありますが)造影不良に見えます。
その後、外科コンサルトされ、絞扼性腸閉塞として手術が施行されました。
~~~~~~~~~~~~~~~~手術記録より抜粋~~~~~~~~~~~~~~~~
血性腹水が腹腔内に多量に貯留していた。
大網が腹膜に癒着しており、鋭的に切離した。
可及的に腹水を吸引し、腹腔内を観察すると壊死腸管を認め、肛門側に向かって腸管壊死の程度を調べた。
回盲部末端まで探索し、虫垂が回盲部末端30cmの回腸と180cmまでの回腸とを後腹膜でclosed loopを形成していた。
虫垂先端から後腹膜から剥離するも腸管壊死は変わらず。そのため、虫垂切除と小腸切除する方針とした。
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ということで、虫垂が後腹膜とくっついて、そこに小腸が入り込む形でclosed loopを形成していたということです。
初回のCTでは明らかな造影不良がなかったので、この段階で手術がされていれば腸切除には至らなかった可能性があります。
致死的とはならなかったとはいえ、絞扼性腸閉塞は診断の遅れが命取りになることを再認識しなければなりませんね。
そういう意味で、経過を含めて教育的な症例といえます。
その他所見:腹水貯留あり。
症例13の動画解説
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。

経過を読ませてもらい緊急でオペしてたらどうだったんだろうと思います。自分なりにできることを頑張りたいです。この勉強もそうですね。ありがとうございました。
アウトプットありがとうございます。
>経過を読ませてもらい緊急でオペしてたらどうだったんだろうと思います。
最初の段階では腸切除まで必要なかったかもしれませんね。
虚血がありそうなのか,絞扼がありそうなのかをしっかり検討できるようにならなければだめだと思い知らされる症例ですね.夜中救急一人の時に困りそうです.
アウトプットありがとうございます。
>虚血がありそうなのか,絞扼がありそうなのかをしっかり検討できるようにならなければだめだ
そうですね。そのためには絞扼性腸閉塞の診断、なかでもclosed loopがあることを診断することが非常に重要ですね。
腸閉塞が疑われて、いきなり造影CT撮影が施行されるような場合、全例で単純CT撮影の追加を依頼医に確認した方がよいのでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
可能ならば単純CTが欲しいですね。造影だけですと比較できないですし。
これは腸閉塞が疑われる場合だけでなく、胆管炎(造影すると総胆管結石が見えにくくなることがあるため)や消化管出血を疑う場合などでもそうですね。造影CTを撮影すれば単純よりも情報が多いのは間違いではないですが、だから単純は必要ないというわけではないですね。
1回目でも造影効果があるとはいえ、わずかに染まりが弱いような気もしましたし、著名な腹水と腸間膜浮腫が随分いやな感じではありました。
2回目は腸管の染まりもなく、絞扼部分の元気のない感じがよく伝わってきますね。(以前先生のおっしゃっていた「腸管壁が菲薄化し、緊満感がなく元気のない感じ」というのは、日頃からかなり参考にさせてもらってます。)
アウトプットありがとうございます。
>1回目でも造影効果があるとはいえ、わずかに染まりが弱いような気もしましたし、著名な腹水と腸間膜浮腫が随分いやな感じではありました。
その嫌な感じを感じ取れることが重要ですね。
>以前先生のおっしゃっていた「腸管壁が菲薄化し、緊満感がなく元気のない感じ」というのは、日頃からかなり参考にさせてもらってます。
これはそもそも動脈血流が不足しているときに起こる所見ですね。
絞扼性腸閉塞でも時間が経過するとこうなりますね。
結果的にはもっと早く手術の決断ができたらよかったのでしょうが、
初診時に、腸間膜浮腫がある、腹水がある、beak signがあるなどからclosed loopを形成している絞扼性腸閉塞と診断できるかどうか、と自分に突き付けられた問題と考えたいです。
アウトプットありがとうございます。
>初診時に、腸間膜浮腫がある、腹水がある、beak signがあるなどからclosed loopを形成している絞扼性腸閉塞と診断できるかどうか、と自分に突き付けられた問題と考えたいです。
見落とされたと言う意味でも非常に教育的な症例と言えますね。
落ち着いて見ると、特に冠状断像で見ると明らかなclosed loopと診断することができますが、このような腸管群を見ても診断できない方はたくさんおられると思います。そのためのブートキャンプなわけですが、症例30が終わるころには、みなさん瞬殺で絞扼性腸閉塞!とおっしゃってくれるハズです。
熟成された腸閉塞は残念ですが、実際のところよく見かけます。初回のCTで食い入るように絞扼を見つけないと患者さんにとって最大の不利益になってしまうので、絶対に見逃したくないです。
アウトプットありがとうございます。
>熟成された腸閉塞は残念ですが、実際のところよく見かけます。
私は外勤先でたまに見かけます。
しかも外勤先なので、数日前に撮影されていることが多く、技師さんにこの人この後どうなっていますか?と聞くこともあります(^_^;)
きちんと診断されないまま転送されているケースが多いですが。
>初回のCTで食い入るように絞扼を見つけないと患者さんにとって最大の不利益になってしまうので、絶対に見逃したくないです。
そうですね。絞扼性腸閉塞を見逃さないためのブートキャンプと言えます。
虫垂の走行に沿ってみられる帯状の低吸収の構造は虫垂間膜でしょうか?
アウトプットありがとうございます。
具体的にどこのスライスのことをおっしゃっていますか?
この方盲腸が結構正中にありますね。
今日もお世話になります。
前の方の質問で認識したんですが、盲腸が正中側にあるんですね!
というのも、盲腸がsmall bowel feces signなのかなと勘違いしてました。でも、その割には糞便チックに泡も細かくないし、拡張腸管からまだ距離あるし、、、と思ったんですよね。その目でみると、虫垂の先端あたりにちゃんと小腸のbeak signがありますね!スッキリしました。
質問ですが、初回CTでも、63/79レベルとかでは小腸ループが左側の(虚脱している)正常小腸あるいは大腸よりも造影効果が弱いように思いました。これくらいは許容範囲ですか?あるいは読影者間でも判断に差があるレベルでしょうか?
正常腸管が虚脱しているとなかなか評価が難しくて苦手です( ´△`)
よろしくお願いします。
アウトプットありがとうございます。
>盲腸が正中側にあるんですね!
そうですね。この症例では盲腸がほぼ正中部に認めています。
結腸には便があるのは普通で、異常所見ではありませんね。
>初回CTでも、63/79レベルとかでは小腸ループが左側の(虚脱している)正常小腸あるいは大腸よりも造影効果が弱いように思いました。
造影効果自体は認めていますが、確かに正常部位と比較すると一部やや落ちていると取ってもいいかもしれません。
この辺りはおっしゃるように明確な境界がないので、読影者間で差がありそうですね(^_^;)
言ったもの勝ちなところもあり、むしろ造影効果が落ちていると主張することで、より絞扼性腸閉塞で手術が必要だと言うことが外科の先生や一人当直などしていて転送などする際には伝わるかもしれませんね・・・。
何度も繰り返している、今回の講座の最低限目標「手術適応かを見極める」というところが正解できて、また、本来のようなケースもあることを知り、今後も基本(致死的疾患の除外)を大切にしていこうと思いました。
アウトプットありがとうございます。
>今回の講座の最低限目標「手術適応かを見極める」というところが正解できて
よかったです!
>本来のようなケースもあることを知り、今後も基本(致死的疾患の除外)を大切にしていこうと思いました。
そうですね。
腸管拡張! うわー、引いてしまった→イレウスで入院ではなく(特に一人当直の病院では結局夜中などに自分が呼ばれることにもなるので)、絞扼性腸閉塞を示唆する所見がないかをチェックして、ある場合は造影CTも撮影して確認するようにしたいですね。