
症例16
【症例】 70歳代男性
【主訴】 腹痛、嘔吐
【現病歴】 約1ヶ月前より間欠的に腹痛と嘔吐あり、当院消化器内科を受診したところCTで多発する肝臓のLDAを指摘され、精査中であった。以降は消化器症状は安定していたが、2日前より嘔気と腹痛があり、同日より排便・排ガスが消失した。改善認めず、 本日、救急外来を受診した。
【既往歴】 大腸ポリープ切除後。
【身体所見】意識清明・会話良好、BT 36.3℃、BP 127/80mmHg、 P 80bpm、腹部:膨満あり、平坦・軟、上腹部正中および下腹部正中に圧痛あり、反跳痛なし、筋性防御なし。
【データ】WBC 7200、CRP 0.77
画像はこちら
肝両葉には既知の淡い低吸収腫瘤を複数認めています。(この精査を消化器内科でされているところでした。)
小腸の拡張、液貯留、ニボー像を認めています。
閉塞機転はないでしょうか?
ちょっとこの症例は特に単純だけでは閉塞機転を探すのが難しいかもしれません。
消化管拡張の系統的読影を順番に上から見ていっても、閉塞機転がはっきりしません。
STEP5の閉塞機転を示唆する所見、beak signやsmall bowel feces signなども今回はっきりしません。
ですので、STEP6の拡張腸管を根気よく追跡し、閉塞機転を検索する必要があります。
ただし、画像をスクロールしていると、拡張腸管を追わなくても、ここに違和感を覚える方もおられるかもしれません。
下腹部正中に3層構造が失われ均一に造影される不整な小腸壁肥厚を認めています。小腸腫瘍を疑う所見です。
同部が閉塞機転となっていることが分かります。
またその左側には腹膜に接する播種結節orリンパ節を疑う所見を認めています。
単純CTで指摘するのは造影CTよりは難しいですが、播種orリンパ節やその周囲の不整な壁肥厚に違和感を持ちたいところです。
診断:小腸腫瘍に伴う小腸閉塞+播種(orリンパ節)
※イレウス管が留置され、3日後に待期的に手術が施行され、悪性リンパ腫(びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL:diffuselargeB-celllymphoma))と診断されました。肝の病変も悪性リンパ腫による病変と考えられ、R-CHOPによる治療が施行され、半年後にPET−CTでCRが確認されています。
追記
直腸膀胱窩の直腸右側にも結節を認めており、こちらも播種もしくはリンパ節が疑われます。
その他所見:
- 肝に多発LDAあり。
- 腎嚢胞あり。
- 腹水貯留あり。
症例16の動画解説
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。

虚脱している小腸で、壁肥厚を指摘するは難しかったです。腫瘍による腸閉塞も忘れないように、注意深く狭窄部を確認していきたいです。
アウトプットありがとうございます。
>虚脱している小腸で、壁肥厚を指摘するは難しかったです。
腸管の重なりでは説明がつかない壁肥厚に気づきたいところですが、今回はちょっと難しかったですね。
腫瘍により腸管の内側から、あるいは外側から狭窄することがありますので注意が必要ですね。
貴重な症例ありがとうございました。
回答するときギブアップしようかと思いました。体験できて良かったです。
アウトプットありがとうございます。
ギブアップの多い症例の一つかも知れませんね。
閉塞起点は見つけましたが小腸腫瘍とは気づけませんでした。リンパ節にも注目ですね
アウトプットありがとうございます。
そうですね。大腸閉塞の場合もそうですが、周囲に小さなリンパ節でもあればよりヒントになりますね。
小腸だとどうしても腫瘍の存在を忘れてしまいますが、原発は少なくても転移や播種ならありえますよね。
壁肥厚もですが、肝転移やリンパ節からも見つけたかった症例です。
今回は指摘できませんでしたが、しっかり復習しておきます。
アウトプットありがとうございます。
>小腸だとどうしても腫瘍の存在を忘れてしまいますが、原発は少なくても転移や播種ならありえますよね。
そうですね。原発の場合は腸管内腔から、播種の場合は腸管の外から狭窄を来します。
閉塞起点には気付けました。壁が厚い?と違和感も持てました。
が、小腸だったので考えることを放棄して癒着にしてしまいました。
当然ですが播種orリンパ節腫大は全く気づきもしませんでした。
答えを見てから考えれば、一カ月前からの間欠的な腹痛と嘔吐を繰り返しているとの病歴で、小腸壁肥厚を疑うことも可能だったかもしれませんね。
ブートキャンプのおかげで閉塞起点には自信が持てるようになってきましたので、あと一歩粘って考えるよう気を付けます。
アウトプットありがとうございます。
>閉塞起点には気付けました。壁が厚い?と違和感も持てました。
が、小腸だったので考えることを放棄して癒着にしてしまいました。
救急外来的にはこれで問題ないのですが、あと一歩ですね。
肝臓のLDAがやはり気になるので、何か腫瘍があるのではないかと思えたらですね。
>ブートキャンプのおかげで閉塞起点には自信が持てるようになってきましたので、あと一歩粘って考えるよう気を付けます。
嬉しいお言葉ありがとうございます(^^)
今回のはちょっと特殊ですので、絞扼性腸閉塞ではないことを指摘できて、機械性単純性の腸閉塞であることがわかればOKだと思います。
いつもありがとうございます。
機械性で単純性の小腸腸閉塞まではたどり着きましたが、癒着にいってしまいました。。
3層構造を保っていないというのが大腸癌の症例で過去見ていましたがが、ピーンときませんでした。
もちろん播種orリンパ節腫大にもきがつかず。いまだに自分自身リンパ節を見る感覚が特に腹部ではないというのがわかりました。
じっくり復習して身につけたいと思います。
アウトプットありがとうございます。
>機械性で単純性の小腸腸閉塞まではたどり着きましたが、癒着にいってしまいました。。
少し今回は特殊ですので、癒着に行かれた方は今回多そうですね。
>3層構造を保っていないというのが大腸癌の症例で過去見ていましたがが、ピーンときませんでした。
大腸癌による大腸閉塞は過去にありましたね。
こちらは頻度が高いので大腸閉塞を見たら大腸癌を疑う必要があります。
>もちろん播種orリンパ節腫大にもきがつかず。いまだに自分自身リンパ節を見る感覚が特に腹部ではないというのがわかりました。
播種や小さなリンパ節は判断が難しいことがしばしばあります。
今回は特に腹壁に接している結節が上下に連続性がないので、おかしいと気づきたいところです。
まさに、「ここはBeak signではありません、腸間膜です」という部分を最初にbeak signかと思ったけれど、なにか違うなと思いつつも、ほかが分からなかったのでそのまま回答しました。
虫垂ブートキャンプでも思ったことですけれども消化管を追うときに、内腔を追うのですが、同時に壁肥厚や周囲のリンパ節、脂肪織混濁も見ないといけないと思いました。
アウトプットありがとうございます。
>虫垂ブートキャンプでも思ったことですけれども消化管を追うときに、内腔を追うのですが、同時に壁肥厚や周囲のリンパ節、脂肪織混濁も見ないといけないと思いました。
上部下部消化管で追えるところは、追いつつ周囲にも気にしながらですね。
大腸閉塞において大腸癌を疑う場合は特にリンパ節には注意ですね。
今回は小腸なので全部追うわけにはいきませんが、拡張している場合は追うことができますので、頑張って追って閉塞機転を探して、その原因を考える際に腫瘤に気づきたいところです。実際は初見ではなかなか難しいですが。
PPSを読んで、先生って、画像診断がほんとに大好きで、またそれを自分だけのものとしないで普及していきたいという伝導の申し子みたいな方と思いました。そんな先生に指導してももらって、とてもラッキーです。
さて、今回の問題。わかりませんでした。腸間膜浮腫はなさそうだし、small bowel feces signもないので、腸管を追っていたら、beak signらしきところがあったので、癒着による小腸腸閉塞症かしら、と考えてしまいました。
解説動画を見ると、いろいろヒントがあったのですが気づけず、まだまだです。
アウトプットありがとうございます。
>PPSを読んで、先生って、画像診断がほんとに大好きで、またそれを自分だけのものとしないで普及していきたいという伝導の申し子みたいな方と思いました。
肝臓の話ですよね。いえいえ、たまたま子供が帰ってこないので読んでいただけです。むしろ早く帰ってきて野球をしに行きたいと思いつつです(^_^;)
結局ママ友のところに夕方まで行っていたようで、野球は行けずでした。
結果、1つ動画を作れたので結果オーライです。
>間膜浮腫はなさそうだし、small bowel feces signもないので、腸管を追っていたら、beak signらしきところがあったので、癒着による小腸腸閉塞症かしら、と考えてしまいました。
今回は難しかったですね。系統的読影でも最終手段の根気よく追う!ということをしないといけないですし。
また頻度も高いものではないので、このような原因で腸閉塞を来すことがあるということを覚えておいていただけたら幸いです。
きっと閉塞起点はここだろうな…までいき、無理やりbeak signやWhorlの所見として取ってしまいました(現場ではダメですよね)
小腸腫瘍は完全に失念してました。
頻度的には低いとはいえ、緊急性の高い病態に繋がりうるのできちんと鑑別にあげなければいけませんね。勉強になりました。
アウトプットありがとうございます。
>きっと閉塞起点はここだろうな…までいき、無理やりbeak signやWhorlの所見として取ってしまいました(現場ではダメですよね)
ダメではないと思いますよ。
閉塞機転を探し、ここだろうなというところまで行ったことが非常に重要です。
現場ではおそらくカルテにもその旨を記載します。
思考停止して単に「イレウス疑い」として消化器科に投げるのとは雲泥の差があります。
>頻度的には低いとはいえ、緊急性の高い病態に繋がりうるのできちんと鑑別にあげなければいけませんね。勉強になりました。
播種などでは外から腸管が圧排されて狭窄を来すことがあるということを覚えておいてください。
いつも詳細な解説ありがとうございます!一つ教えて頂きたいことがあります。
これまでの腸閉塞ブートキャンプでも、重要な所見に気付けず、最終的に拡張腸管を追う作業になることも多かったのですが、
いつも、腸管をどこから追い始めれば良いのだろうと悩みます。
追った結果、口側に辿り着くと少し気が滅入ります。笑
例えば今回の症例ですと、先生はどこのスライスから追跡を始めますか?
初歩的な質問で恐れ入りますが、何かアドバイスいただけると幸いです。
アウトプットありがとうございます。
>いつも、腸管をどこから追い始めれば良いのだろうと悩みます。
追った結果、口側に辿り着くと少し気が滅入ります。笑
拡張腸管の系統的読影法で読影して、最後のステップである、STEP6 拡張腸管をとにかく追うというところまで手がかりがない場合は、今回のように追うしかありません。
その際、どこの腸管から追うという目安はありません。目の前の拡張腸管をどれでもいいのでここと決めて追うしかありません。
結果、口側であろうというところにたどり着いた際は「逆だったか〜〜」と逆に追うしかありません。
STEP5までは美しい系統的読影法も6まで来ると根性論に変わります(^_^;)
症例とは関係ありませんが、
もみじのトンネルに大感動です、こんなに美しい路線があったのですね!
紅葉の時期と天候にくわえ走行している時間帯が揃った奇跡的などうがですね。
症例検討の前に癒やされ幸せな気分で症例に向き合うことができました。
美しい画像を共有していただきありがとうございます!
まだまだ勉強も頑張ります。m(_ _)m
noteへのアウトプットありがとうございます。
>紅葉の時期と天候にくわえ走行している時間帯が揃った奇跡的などうがですね。
そうなんです。それに加えて、車掌さんの背後の場所取りをできたという点も重要です。
>症例検討の前に癒やされ幸せな気分で症例に向き合うことができました。
美しい画像を共有していただきありがとうございます!
こちらこそ、そのように言っていただき、ありがとうございます。
パワースポットで吸収してきたパワーが届いたようでよかったです。
後から見た方が何のことを言っているのかわからないと思いますので、noteはこちら。
https://note.com/radiologycafe/n/nb950509e406d
解説ありがとうございます。
145-150腹部正中に見えるものを腹水ととり、麻痺性ではなく、閉塞起点のある腸閉塞と考えました。
先生の解説の中では単純CTの方で”beak signにもみえるがそうではなく腸間膜”との説明がありました。
僕の考えはどうでしょうか?よろしくお願いいたします。
アウトプットありがとうございます。
まず、腹水か腸間膜の浮腫か、どちらであってもbeak signとは取らないことが重要です。
腹水であるならば重力に従って、ダグラス窩や傍結腸溝などにもっと認めて欲しいような気もします。(ところで左傍結腸溝にも少量腹水があり少し毛羽立っているのでここにも播種がありそうですね。)
ただ浮腫にしては低吸収がちょっと強く水のようにも見えますね。ですので腹水と取っても問題ないと思います。
ありがとうございます。
ごめんなさい、追加で質問させていただきたいのですが、今回の肝臓のLDAは嚢胞のようにみえています。
僕が偶発的にこの所見をみたらエコーフォローで済ませようかなと思いました。
今症例のように悪性腫瘍の転移でこのように見えることは多いのでしょうか?
また、今症例でエコーをしているとしたらどのような所見だったでしょうか?
>今回の肝臓のLDAは嚢胞のようにみえています。
嚢胞としてはやや高吸収に見え、また少し辺縁が嚢胞ほど明瞭でない点も気になります。
ただし、過去からずっと変わっていなければ嚢胞なのだろうと済ませるくらいの所見かもしれません。
エコーの所見はわかりません。
肝転移は原発巣によって異なりますが、リング状に造影されるものが多いですね。
そういう意味で今回の肝転移はわかりにくく非典型的とも言えます。
関連
https://xn--o1qq22cjlllou16giuj.jp/archives/15602
いつもお世話になっております。
1つ質問させてください。
腹腔内のリンパ節転移と播種結節との鑑別の仕方はございますか?
個人的には、明らかにデカデカとして不整形なものは播種がより疑わしいのかなと思っています。
ご教授のほどよろしくお願いします。
アウトプットありがとうございます。
リンパ節転移は通常血管沿いに認めますので、大動脈や、腸骨動脈、上腸間膜動脈、腹腔動脈沿いなどを観察します。
今回は胸壁に接するように結節を認めていますので、リンパ節転移よりはおっしゃるように播種を第1に考えたいところです。
しつこいようですがw、今回は絞扼の有無が正診できて、とりあえず満足です(‘ω’)
閉塞起点や機序はとても難しかったので勉強になりました。類似例は割と出会います(原疾患が分かっていることが多い気がします)が、割とすぐに外科になげてしまっている気がします(^^;
アウトプットありがとうございます。
>しつこいようですがw、今回は絞扼の有無が正診できて、とりあえず満足です(‘ω’)
いえいえ、しつこくないですw
そこがまずは一番大事なところで、それをしつこくやっていこうという講座ですので(^_^;
>閉塞起点や機序はとても難しかったので勉強になりました。類似例は割と出会います(原疾患が分かっていることが多い気がします)が、割とすぐに外科になげてしまっている気がします(^^;
少し難しい症例でしたね。特に単純CTのみですと診断はさらに難しかったですね。
いつも貴重な症例提示をありがとうございます。
小腸腫瘍による腸閉塞ということは診断でき、肝転移を伴う悪性腫瘍なら周囲にリンパ節転移があるかもしれないということまで考えておきながら、播種(orリンパ節転移)の所見を見落としてしまいました。
未だに播種やリンパ節の指摘が苦手なので、意識してトレーニングしていきたいと思います。
アウトプットありがとうございます。
>小腸腫瘍による腸閉塞ということは診断でき、肝転移を伴う悪性腫瘍なら周囲にリンパ節転移があるかもしれないということまで考えておきながら
いえいえ、ここまで診断できたら十分だと思います。
播種の診断はしばしば難しいですね。
今見直してみますと、Douglas窩(横断像 173/184で直腸の右側、冠状断像では126/138あたり)にも結節がありそうですね(^_^;
追記します。
毎回、勉強させて頂いてます。腸閉塞とは関係ないですが、一つ質問があります。
腹痛、腰背部痛で受診した患者で尿管結石を疑って腹部CTを撮影することがあります。
読影技術に未熟であり、尿管を上手く追えないことがあります。特に、痩せている人、宿便、女性(子宮がある)が上手く読めない印象です。読影のポイントやまた、骨盤内の静脈石との鑑別法をご教授してください。
今回のテーマとは違いますが、大変恐縮ですが宜しくお願いします。
アウトプットありがとうございます。
尿管ですがおっしゃるように途中部分が追えないことはたまにあります。上から下に追って膀胱から上に追って、それでも繋がりがわかりにくい症例もあります。
静脈石との鑑別については
凹凸不整で中心部に透亮像がない→尿管結石
球形でかつ中心部に透亮像がある→静脈石
とも言われますが、実際は透亮像がはっきりしない静脈石も結構あります。
やはり血管と連続するのか、尿管と連続するのか連続性を追うのが鑑別に最も重要だと考えます。
ただ、先ほど申し上げたようにどうしても追えない症例はあります。
(その場合は連続性がはっきりしないけど、結石を疑う所見はなさそうだということを記載します。)
関連
https://xn--o1qq22cjlllou16giuj.jp/archives/44147