
症例26
【症例】80歳代男性
【主訴】嘔吐
【現病歴】昨晩2回嘔吐あり、今朝になっても嘔吐あり。来院。
【既往歴】胃潰瘍
【身体所見】意識清明、BT 37.6℃、BP 166/95mmHg、HR 100bpm、SpO2 97%、腹部:平坦・軟、腸蠕動音聴取良好、圧痛なし。
【データ】WBC 21900、CRP 1.46
画像はこちら
小腸の拡張、液貯留、ニボー像を認めています。
閉塞機転はないでしょうか?
今回は見つけるのは容易ですね。
左鼠径部に腸管および腸間膜の逸脱・嵌頓を疑う所見があり、外ヘルニアを形成していることが分かります。
造影CTを見てみましょう。
逸脱した腸管の造影効果は早期相では落ちており、少なくとも虚血が疑われます。
またヘルニア水を認めており、腸管の嵌頓を示唆する所見といえます。
診断:左鼠径部のヘルニア嵌頓による小腸腸閉塞
でもいいのですが、より正確な診断はどうでしょうか?
鼠径部に認める外ヘルニアには以下のものがあり、鑑別点は以下の通りでした。
大腿・直接鼠径・間接鼠径ヘルニアの特徴と鑑別
鼠径靱帯の | 下腹壁静脈の | 関係が深いのは | 脱出方向 | |
大腿ヘルニア | 下(後) | 内側 | 大腿静脈、大伏在静脈 | 足方 |
内(直接)鼠径ヘルニア | 上(前) | 内側 | 足方 | |
外(間接)鼠径ヘルニア | 上(前) | 外側 | 精索(子宮円索) | 内側足方 |
内鼠径ヘルニアか外鼠径ヘルニアかの鑑別にキーとなるが下腹壁動静脈でした。
大腿動脈から分岐する下腹壁動脈を同定できます。
下腹壁動静脈よりも外側にヘルニア門を有しているため、外鼠径ヘルニアと診断できます。
診断:左外鼠径ヘルニア嵌頓による小腸腸閉塞
※外科にて手術となりました。逸脱腸管に壊死は認めておらず、腸切除は行われませんでした。
その他所見:
- 左誤嚥性肺炎疑い。
- 下部食道壁肥厚あり。嘔吐による変化か。
- 肝嚢胞あり。
- 腎嚢胞あり。
- 少量腹水あり。
- 動脈硬化あり。
症例26の動画解説
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。

S状結腸も逸脱しているのでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
確認したところ、確かにS状結腸も逸脱していますね(^_^;)
ただし、口側の結腸は拡張しておりませんので閉塞機転を形成しているわけではなさそうです。
最近同じような症例で痛い経験をしました。
80代男性、主訴は臍周囲痛と便秘。
数年来の便秘もち。
臍周囲痛を感じたのははじめてで、痛みは受診日前日の夜からはじまって30分くらいかけて強くなり、最強時の痛みの強さは5/10、寝るときには治まったが、再び痛みが増悪したため救急受診。
受診時は痛みに波はなく、持続痛とのこと。
嘔吐症状はなし。
身体診察では、腸雑音亢進、腹部やや膨隆している印象あり、臍周囲部と左側腹部に圧痛あり。
持続痛である点が便秘っぽくないし、何かあるかもねという話になり、CTを撮ったところ左外鼠径ヘルニアによる腸閉塞でした^^;
しっかりズボンを下げて診察しなかったことが悔やまれました。
患者さんは意外と鼠径ヘルニアのこと教えてくれないんだなと学んだ症例でした。。
痛い経験のアウトプットありがとうございます。
いやいや、CTでばっちり診断できたのならよかったのではないでしょうか。と思ってしまう放射線科医ですが、
やはり撮影前に診断して、その確認のためのCTとしたいというところでしょうか。
>患者さんは意外と鼠径ヘルニアのこと教えてくれないんだなと学んだ症例でした。。
貴重な体験談ありがとうございます。
同性でもそうなので、異性なら年齢関係なくそうなりますよね(^_^;)
症例ありがとうございます。
下腹壁動静脈の同定、なかなかできるようになりません。
小腸だけでなく、S/Cも逸脱していることはわかりました。ただ、その口側の拡張がなかったのでなぜだろうとは思いましたが、、、
S/Cは逸脱しているだけで閉塞はしていないということなのですね。
アウトプットありがとうございます。
>下腹壁動静脈の同定、なかなかできるようになりません。
横断像ですと同定しにくいことがあるので、冠状断像で腹壁を走行する血管を見つけて、それを横断像と対比させるのが早いかも知れません(みなさんの環境では横断像と冠状断像を2画面で対比させながら見られないので申し訳ありません。)。また今回の症例は冠状断像でも下の方しかはっきりしませんね。
こちらの症例はわかりやすいのでご確認ください。
>S/Cは逸脱しているだけで閉塞はしていないということなのですね。
おっしゃるとおりです。出ているだけで腸閉塞には至っておりません。
いつも勉強させていただいております。ありがとうございます。
本筋とは関係のない所で恐縮なのですが、前立腺の右頭側の高吸収は精嚢?の石灰化でしょうか?
また、少量の腹水というのは、106〜97あたりの直腸の右側の部分でしょうか?
稚拙な質問ですみません。どうぞよろしくお願いいたします。
アウトプットありがとうございます。
>前立腺の右頭側の高吸収は精嚢?の石灰化でしょうか?
輸精管の石灰化ですね。
こちらで出てきたやつです。
https://imaging-diagnosis.com/view/p2GDdcVL
>少量の腹水というのは、106〜97あたりの直腸の右側の部分でしょうか?
おっしゃるとおりです。
今回は、閉塞機序自体は難しくなかったので、ヘルニアの分類を正診するところを目標にし、正解できました。
いつまでたっても、内外鼠径ヘルニア・大腿ヘルニアは間違えてしまうので、クイズで出題されるたびポイントを確認しておこうと思います。
アウトプットありがとうございます。
>今回は、閉塞機序自体は難しくなかったので、ヘルニアの分類を正診するところを目標にし、正解できました。
そうですね。今回は閉塞機転はわかりやすかったですね。
左下葉の肺炎も気になりますね・・・。
>いつまでたっても、内外鼠径ヘルニア・大腿ヘルニアは間違えてしまうので、クイズで出題されるたびポイントを確認しておこうと思います。
ここはおっしゃるように覚えるというよりは、遭遇するたびに都度分類を確認で良いと思います。