
症例12
【症例】 80歳代女性
【主訴】上腹部痛
【現病歴】5時間前から徐々に上腹痛が出現。嘔気嘔吐あり。症状の増悪あり、救急要請。
【既往歴】右乳癌術後、虫垂炎術後
【身体所見】Vital:記載なし。腹部:平坦・軟、上腹部〜右季肋部、下腹部に圧痛あり。
【データ】WBC 10000、CRP 0.04
画像はこちら
左腹部を中心に小腸の拡張、液貯留、ニボー像を認めています。
下腹部にsmall bowel feces signを示す小腸があり、その腸管を追ってみると・・・。
左鼡径部に腸管の逸脱及び嵌頓を疑う所見を認めています。
同部が閉塞機転となり、腸閉塞を来していることがわかります。
嵌頓している腸管に明らかな腸管虚血・壊死を疑う所見は現状は認めていません。
診断:左鼡径部ヘルニア嵌頓による小腸閉塞
でもよいのですが、より具体的な診断名は何でしょうか?
鼠径部に認める外ヘルニアには以下のものがあり、鑑別点は以下の通りでした。
大腿・直接鼠径・間接鼠径ヘルニアの特徴と鑑別
鼠径靱帯の | 下腹壁静脈の | 関係が深いのは | 脱出方向 | |
大腿ヘルニア | 下(後) | 内側 | 大腿静脈、大伏在静脈 | 足方 |
内(直接)鼠径ヘルニア | 上(前) | 内側 | 足方 | |
外(間接)鼠径ヘルニア | 上(前) | 外側 | 精索(子宮円索) | 内側足方 |
鼠径ヘルニアと大腿ヘルニアの鑑別は上にあるように鼠径靱帯の上(前)か下(後)かという点です。
この図がわかりやすいです。
ここまでわかる急性腹症のCT第2版 図3 大腿ヘルニアの経路(右鼠径部を前足方から見た図)より引用改変
しかし、横断像では鼠径靱帯の同定は困難です。
そこで、冠状断像が必要となります。
今回の症例の冠状断像です。
左鼠径靱帯の背側から逸脱していますので、大腿ヘルニアであることがわかります。
もう一つ大腿ヘルニアには以下の特徴があります。
それは、嵌頓した腸管と大腿動静脈がほぼ伴走している点です。
内鼠径ヘルニアの場合、逸脱腸管は尾側にかけて内側に向かうことが多いので、この点も大腿ヘルニアに合致します。
診断:左大腿ヘルニア嵌頓による小腸閉塞
※外科で手術となりました。腸管壊死は認めておらず、腸切除は行われていません。
その他所見:肝嚢胞・腎嚢胞・傍腎盂嚢胞あり。
症例12の動画解説
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。

鼠径靱帯は冠状断がわかりやすいですね。
アウトプットありがとうございます。
逆に横断像だと厳しいですね(^_^;)
虚血なしということですが、虚血ありかと思ってしまいました(鼠経ヘルニアだからないと思いながらも:いいわけです)。エアバブルがあるあたりは同程度に拡張した腸管壁より染まってないと思うのですが、これまでの症例から当てものみたいな正答率になっています。ご助言いただきたいです。
アウトプットありがとうございます。
>エアバブルがあるあたりは同程度に拡張した腸管壁より染まってないと思うのですが、これまでの症例から当てものみたいな正答率になっています。ご助言いただきたいです。
エアバブルがある辺りは造影されています。
造影効果をチェックするのは主に、closed loopに陥っている部分(今回ですと嵌頓している腸管)です。
嵌頓した小さな腸管に造影不良や、腸間膜浮腫、壁肥厚などは今回認めていません。
本当に何度やっても鼠径部ヘルニアの鑑別は忘れてしまいますね。
この講座で教えていただいてる表や図を確認しながら、染みつくまで繰り返すしかないですね(^_^;)
アウトプットありがとうございます。
鼠径部ヘルニアは難しいですよね(^_^;)
>この講座で教えていただいてる表や図を確認しながら、染みつくまで繰り返すしかないですね(^_^;)
都度、表や図をチェックすればいいと思います。覚える必要もないかもしれません。
大腿ヘルニアは大腿動脈と伴走するのは特徴的ですが。
Small bowel feces signを手がかりにできました。
横断像では鼠径部のヘルニアに気付きにくく、
冠状断に助けられました。
鼠径靱帯も同定できて、それの背側から出ている大腿ヘルニアと
診断できました。
80歳代の女性にしては子宮が大きいように思われましたが、どうでしょうか
アウトプットありがとうございます。
>Small bowel feces signを手がかりにできました。
そうですね。今回も手がかりとなります。
>鼠径靱帯も同定できて、それの背側から出ている大腿ヘルニアと診断できました。
完璧ですね!
>80歳代の女性にしては子宮が大きいように思われましたが、どうでしょうか
確かにおっしゃるように年齢の割に大きめですね。
いつもありがとうございます。
鼠径ヘルニアですが、ヘルニア内容が腸管壁の一部のように見え、richter型ヘルニアかなと思ったのですが、どうでしょうか。
鼠径ヘルニアではなくて、大腿ヘルニアでした、すみません。
アウトプットありがとうございます。
おっしゃるように大腿ヘルニアや閉鎖孔ヘルニアはrichter型ヘルニアがあることで有名ですね。
ただし、今回は手術記録を確認しましたが、richter型ヘルニアではないようです。
画像でrichter型ヘルニアというのはなかなか難しいと思います・・・。
いつも有難うございます。今回、ヘルニア水は認めていないようですが、虚血を来たさない程度の絞扼だったからなのでしょうか、それとも少し時間が経過したからなのでしょうか。腹水を認めていないので、少し時間的にいとまがあるのかなと感じてしまいましたが危険でしょうか。
アウトプットありがとうございます。
嵌頓してから割と時間が経過していないためと思われます。結果的に腸切除にも至っていないですし。
じゃあ何時間なのかというのはケースバイケースでしょうけど。
このまま放置すると、ヘルニア水や腹水も出現してくると思われます。
いつもお世話になっております。
鼠径部のヘルニアで機械的腸閉塞を来している場合は、カントンした腸がある時点で、全例絞扼性と考えてよろしいですか?それとも、今回のように目立ったループは形成してない場合はあまり書かない方がよいのでしょうか?
よろしくお願いします。
(PS)胸部tips59で質問を致しましたが、ご回答を頂けておりません。ご多忙のなか恐縮ですが、差し支えなければ御教授お願い申し上げます。
アウトプットありがとうございます。
>鼠径部のヘルニアで機械的腸閉塞を来している場合は、カントンした腸がある時点で、全例絞扼性と考えてよろしいですか?
鼠径ヘルニアの場合は用手的に整復できることがありますし、嵌頓というほどの状態ではないことがありますので、全例ではありません。
一方で大腿ヘルニアは整復が困難なことが多いので嵌頓による絞扼を来しやすいといわれています。
ですので大腿ヘルニアと鼠径ヘルニアはできるだけ鑑別できた方がよいですね。
実際は大腿ヘルニアなのに鼠径ヘルニア嵌頓の診断で手術されて、実は大腿ヘルニアだったということもあとから振り返ると結構あります。
ですので、鼠径ヘルニア嵌頓と診断されているものの結構な割合で大腿ヘルニアがあります。
鑑別点は記載したとおりです。
>(PS)
すいません。全く気づいておりませんでした。先ほど返信しました。申し訳ありません。
いつもお世話になっております。
腸管虚血の所見がないため、単純性小腸閉塞の疑い、と記載しました。
ヘルニア嵌頓が原因なので、虚血がはっきりしなくとも複雑性と一応記載すべきなのか、単純性か複雑性か言及せず小腸閉塞の疑いとだけ記載すべきなのか分かりませんでした。
どのような記載をする先生が多いのでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
>ヘルニア嵌頓が原因なので、虚血がはっきりしなくとも複雑性と一応記載すべきなのか、単純性か複雑性か言及せず小腸閉塞の疑いとだけ記載すべきなのか分かりませんでした。
そうですね。今回は明らかな造影不良もありませんし、嵌頓した部位も浮腫やヘルニア水が目立つわけでもありません。
ですので現状は絞扼性とは言いにくい状態です。
どのように記載されることが多いかですが、
虚血の有無は記載しない「左鼡径部ヘルニアによる小腸閉塞」
今後絞扼に陥る可能性がある「左鼡径部ヘルニア嵌頓による小腸閉塞」
等と記載されることが多いと思います。
鼠径ヘルニアであっても腸閉塞になっておりますので、外科にコンサルトしたいところではありますが、今回は大腿ヘルニアですので嵌頓から絞扼のリスクが高く、その点は記載して外科にコンサルトまでは必ず持って行きたいです。
「鼠径ヘルニアによる小腸閉塞が疑われます。現状あきらかな虚血を疑う所見は認めない。」
でとりあえず内科入院はまずいですね。
外ヘルニアは嵌頓している場合は、2箇所で締め付けられていますので、小さなclosed loopを形成しているとも言えます。
癒着などによる単純性小腸閉塞とは違う点にご注意ください。
お疲れ様です。
鼠径靱帯の後ろか前かの判断がなかなか難しく感じます。。
アウトプットありがとうございます。
鼠径靱帯は冠状断像でしか同定することができません。
大腿ヘルニアかどうかの判別には、嵌頓した腸管と大腿動静脈がほぼ伴走していることを確認する方法が実際は実践的かもしれません。
振り返ると、かなり目立つ所見ではあったのですが、視野が狭まると全然ダメですね。反省。
アウトプットありがとうございます。
腸管の拡張もそれほど目立つわけではない
絞扼性腸閉塞を疑うような腸間膜の浮腫や複数のbeak signははっきりしない
→なので(閉塞機転がはっきりしないので)、イレウスですかね。
としたくなる症例かもしれませんが、忘れた頃にやってくる、鼠径ヘルニア、大腿ヘルニア、閉鎖孔ヘルニアですね。
系統的読影法に基づいて外ヘルニアをきちんと除外することが重要ですね。
右の腸骨筋に沿った低吸収域は腸恥嚢胞的なものですか?
アウトプットありがとうございます。
おっしゃるように滑液包でよいと考えます。