
症例5
【症例】70歳代女性
【主訴】お腹が張る
【現病歴】1週間くらい前から腹部膨満の自覚あり。昨日夜から増悪したため、本日救急外来受診。
【既往歴】なし
【身体所見】意識清明、BT 36.5℃、BP 165/106mmHg、HR 80bpm、SpO2 98%、腹部:膨満、軟、自発痛・圧痛なし、触診にて不快感あり、腸蠕動音:減弱
【データ】WBC 12600、CRP 1.04
画像はこちら
例によって、小腸の拡張、液貯留、ニボー像を認めています。
ただし、今回は、小腸だけでなく結腸も拡張しています。
拡張した結腸を追うと、上行結腸、横行結腸、下行結腸と拡張していることが分かります。
閉塞機転はないでしょうか?
肛門側に閉塞機転がないかをチェックします。
結腸の場合はどちらの方向が肛門側なのかがすぐに分かりますね。
下行結腸が拡張しているということは、下行結腸よりも肛門側に閉塞機転があるということです。
下行結腸を尾側に追うと、下行結腸に閉塞機転があることがわかります。
冠状断像でよりわかりやすいですね。
閉塞機転では不整な壁肥厚を認めており、3層構造が失われています。
どういったことを考える必要があるでしょうか?
大腸閉塞の場合は、腫瘍が閉塞機転となるのが最多でした。
このように3層構造が失われているのが癌の特徴でした。
診断:下行結腸癌による大腸閉塞+小腸閉塞
※手術が施行され、最終的に結腸癌(tubular adenocarcinoma)と診断されました。
その他所見:
- 下行結腸の閉塞機転周囲に小リンパ節あり。転移の可能性あり。
- 心拡大あり。
- 肝は辺縁鈍、左葉の肥大あり、慢性肝障害の可能性あり。
- 左恥骨に陳旧性骨折あり。
- 少量腹水あり。
症例5の動画解説
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。

小腸の拡張を認めた場合、上行結腸の状態を確認する重要性を感じます。
上行結腸が普通便もしくは虚脱の場合は小腸での機械的閉塞、液体貯留を認める場合は麻痺性イレウス、液体貯留を伴った拡張を認める場合は大腸閉塞を念頭に読影しています。
アウトプットありがとうございます。
拡張している肛門側に閉塞機転がありますので、(追いやすい)結腸が拡張していたら、より肛門側に着目ですね。
大腸まで拡張していたので指摘することができました。
今回は腸閉塞ブートキャンプですが、腫瘍を見つけた後どのように鑑別していくのか、転移を探す手順などが分からず、いつも読影に苦慮してしまいます(^_^;)
アウトプットありがとうございます。
>腫瘍を見つけた後どのように鑑別していくのか、転移を探す手順などが分からず、いつも読影に苦慮してしまいます(^_^;)
この講座では救急外来を想定していますので、とりあえず腸閉塞があること&その原因を指摘できたらよいのですが、転移を探す場合は、
・腫瘍の周囲への浸潤の有無
・周囲リンパ節腫大
・傍大動脈など離れた部位でのリンパ節腫大
・肝転移
・副腎転移
・肺転移
・骨転移
などを中心に見ていく感じです。
やはり頻度などを考えると腫瘍なんですね
画像だけでは言い切れないでしょうが参考になりますね
アウトプットありがとうございます。
そうですね。結腸の場合は腫瘍があるのではないか!?という目で内視鏡に回すことが重要ですね。
腸閉塞は治ったけど、腫瘍があることに気づいていなかったでは後々問題になりますからね。
今回の下行結腸癌によると思われる腸閉塞はわかりました。(よかったあ!)
閉塞部位の腸管周囲の脂肪織濃度上昇、腹膜の肥厚(130/356)は周囲への浸潤疑いでいいのでしょうか。
あるいは炎症なのでしょうか。
それから、その他の所見がないかいつも捜していますが、「左恥骨に陳旧性骨折」なんてよく見つけられるものですね。
アウトプットありがとうございます。
>今回の下行結腸癌によると思われる腸閉塞はわかりました。(よかったあ!)
よかったです!本編でも結腸癌による大腸閉塞は出てきましたね。
>閉塞部位の腸管周囲の脂肪織濃度上昇、腹膜の肥厚(130/356)は周囲への浸潤疑いでいいのでしょうか。
こちらは腸閉塞による圧上昇に伴い、反応性に腹膜が肥厚しているかもしれませんが、基本は傍結腸溝の腹水と思われます。
>それから、その他の所見がないかいつも捜していますが、「左恥骨に陳旧性骨折」なんてよく見つけられるものですね。
今回骨条件を提示しておらず恐縮ですが、腫瘍を疑う場合は、骨転移のチェックも必ず必要ですね。
陳旧性骨折や骨島などの良性病変はその際に見つかることが多いですね。
下行結腸遠位の壁肥厚があり近くのリンパ節腫大があったので結腸癌による閉塞は推測できました。三層構造が崩れているというのがまだ自信持てないのですが、症例を多く見るべきなんでしょうね・・・。加えて、腸間膜が濃く見えて、腸間膜転移とか腹膜播種とかも浮かんだのですが、どの程度まで濃度上昇すればそれらを疑うかとかもまだ身についてないですorz。このあたりも、読影の慣れに拠る部分が多いのでしょうか・・・
アウトプットありがとうございます。
>三層構造が崩れているというのがまだ自信持てないのですが、症例を多く見るべきなんでしょうね・・・。
確かに今回は腫瘍部分のサイズが小さいのでわかりにくいかもしれません。
>加えて、腸間膜が濃く見えて、腸間膜転移とか腹膜播種とかも浮かんだのですが、どの程度まで濃度上昇すればそれらを疑うかとかもまだ身についてないですorz。
わずかな播種などは腸間膜や大網の濃度上昇として認めますが、ある程度明瞭化しないと難しいですね。過去画像との比較も重要ですね。
結節として同定できるくらいのサイズでないと自信を持っての指摘は困難です。
基本的なことで申し訳ありません。
腸管の浮腫→矢頭状ではないから小腸?という風に考えてしまい、腹部救急で教えいていただいた3層構造を見直しました。考え方の表に癌は入っていないことに気づいたのですが、癌がある部位ではなく、それによる腸閉塞にかかわる部位については3層構造の考え方は用いないのでしょうか。
また、大腸は、かなり浮腫がひどくなっていても(管腔が広くなっていても)粘膜下層の拡張ということで矢頭状は保たれるのでしょうか。
アウトプットありがとうございます。
>癌がある部位ではなく、それによる腸閉塞にかかわる部位については3層構造の考え方は用いないのでしょうか。
それによる腸閉塞にかかわる部分という意味が少し分からないのですが、今回腫瘍の部分は3層構造は失われており、その少し口側の結腸は3層構造が保たれており少し粘膜下層が肥厚しているところがあります。
>大腸は、かなり浮腫がひどくなっていても(管腔が広くなっていても)粘膜下層の拡張ということで矢頭状は保たれるのでしょうか。
これも浮腫がひどくなっていることと管腔が広くなっていることの関連がよくわからないのですが、結腸に炎症や虚血があれば3層構造を保った壁肥厚を認めます。
腹部救急に参加されたとのことで、これらは虚血性腸炎や感染性腸炎、薬剤性腸炎などの症例で扱っていますので見直してみてください。
腸閉塞によって結腸の管腔は広くなっている場合、口側の結腸は基本的に炎症や虚血を伴わないため粘膜下層の肥厚を認めずに拡張します。
ただややこしいのですが例外があって閉塞性腸炎という病態があり、これは閉塞機転の口側の結腸が粘膜下層の肥厚を示し、他の結腸炎などと紛らわしいことがあります。
とはいえ頻度は少ないので、例外と覚えておいてください。
関連
https://xn--o1qq22cjlllou16giuj.jp/archives/4996
診断は問題なくできたのですが、副所見として挙げて頂いていた小リンパ節は完全に見落としました。。。
そのような所見も含めてプレゼンできると、各専門科の先生方にも「じゃあ腫瘍っぽいか」と納得していただきやすいかと思うのですが、慌ただしいERではなかなか難しそうです。。。
リンパ節腫脹の読み方・好発部位などありますでしょうか?時間はかかっても腹腔リンパ節など一つづつ丁寧に見ていくしか無いのでしょうか。
アウトプットありがとうございます。
まずは腫瘍が疑われる部位の周囲ですね。
あとは、大動脈からその血管に至る大血管周囲を中心に観察していきます。
腫大は短径1cmを有意と取ることが多いですが、腫瘍の周囲ですと小さなものでも転移の可能性がある点をプレゼンできたら良いと思います。
動画になりますがこちらの4分40秒くらいからもチェックしてみてください。
https://www.youtube.com/watch?v=e4Lj8VQb0i8
閉塞点は指摘できている人が多そうです。
重積のように見えてしまって、間違えてしまいました。他にもいるのかなと思ってコメントを漁っていましたが、いらっしゃらないようですね(・・;) よく見ておきます。
アウトプットありがとうございます。
>閉塞点は指摘できている人が多そうです。
結腸も拡張していることに気づけば、結腸を肛門側に追うことで閉塞機転に至りますが、それに気づかないと小腸も結構広範に拡張してますので沼にはまる方もおられると思います。
>重積のように見えてしまって、間違えてしまいました。他にもいるのかなと思ってコメントを漁っていましたが、いらっしゃらないようですね(・・;) よく見ておきます。
閉塞機転がかなり細いのでそのように見えたのかも知れませんが、今回は腸重積はなさそうですね。
関連
https://xn--o1qq22cjlllou16giuj.jp/archives/17022
今回は閉塞性腸炎ありの判断でよいでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
125 / 356あたりの口側の結腸には壁肥厚を一部認めており、軽度認めているとは言えると思います。
ただ、虚血性大腸炎様とほぼ同様の壁肥厚を認める際に閉塞性腸炎という用語が使われるため、あってもごく一部ということになります。
(参考:画像診断別冊KEY BOOKシリーズ わかる!役立つ!消化管の画像診断 P217)
ありがとうございます。勉強になります。
一般的な質問で恐縮ですが、腸閉塞や消化管出血を疑って撮影するダイナミックCTを2相で行うなら、とのタイミングがおすすめでしょうか?よろしくお願いいたします。
アウトプットありがとうございます。
動脈相(造影開始 25–35 秒後)と門脈相(造影開始 60–70 秒後)の2相ですね。
この2相で腸管出血のextravasationと、腸閉塞に伴う腸管壁血流変化の両方を効率的に評価することができるためです。
この講座の腹部は単純CTが撮影されていないことが多いですが、単純CTも撮影された方がよいです。