
症例8
【症例】 60歳代男性
【主訴】 黒色吐物
【現病歴】 4日前から嘔気自覚、2日前の朝食後にも嘔気あり、自分で手で嘔吐反射起こし嘔吐したところ血が混ざっていたため受診。
【既往歴】 5年前汎発性腹膜炎を伴う急性虫垂炎で手術、高血圧、前立腺肥大症、高脂血症
【身体所見】 腹部正中に手術癩痕あり 腹部平坦・軟圧痛なし膨満感あり
【データ】WBC 8400、CRP 4.54
画像はこちら
小腸の拡張、液貯留、ニボー像を認めています。
閉塞機転はないでしょうか?
今回は拡張腸管はそれほど広範囲というわけではないですね。
拡張腸管を追うと、急に細くなっており、beak signを形成していることが分かります。
近接する腸管も上下にスクロールするとbeak signを形成していることが分かります。
先ほどのbeak signを形成している腸管を右側に追うと、今度は逆方向にbeak signを形成しています。(beak signとbeak signがkissをしているような状態です)
合計3箇所でbeak signを形成していることが分かります。
また、軽微な所見ですが腸間膜の浮腫も認めています。
何が起こっているのでしょうか?
closed loopを形成しているということです。
冠状断像が少し見やすいので見てみましょう。
この2スライスで、beak sign、closed loop、拡張した口側腸管、虚脱した肛門側の腸管はどのような位置関係になっているでしょうか?
このようになっています。
これらの関係がよく分かりますね。
なお、closed loopを形成している腸管に造影不良はありません。
診断:絞扼性腸閉塞
※手術となりました。
~~~~~~~~~~~~~手術記録より抜粋~~~~~~~~~~~~~
右側の腹壁に腸管、大網が広範囲に癒着していた。この癒着により腸間膜が内ヘルニアを形成しており、口側腸管が嵌頓していた。
嵌頓腸管は軽度のうっ血を認めたが虚血の所見を認めず、拡張していた。
癒着剥離により内ヘルニアを解除し、全腸管を確認しつつ適宜癒着を剥離した。
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手術所見においても、腸管虚血は認めておらず、腸管切除は施行されませんでした。
腸管壊死に陥っており、腸管切除が行われた症例1と比べると所見の派手さはありませんが、この症例も早期診断されなければ腸管壊死に陥っていた可能性もありますね。
その他所見:
- 肝嚢胞あり。
- 結腸憩室散見。虫垂術後。
- 腹水貯留あり。
- 前立腺LDAあり。
症例8の動画解説
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。

腸管の走行的にCorが非常に見やすい症例でした。
これまでの症例でも何回か見られた絞扼部の先に見られる?であろう腸管壁肥厚がまたあり、これも腸閉塞における1つのsignとして確認してみようと思います。
みなさんのレベルが高いので、こちらとしては質疑応答のやりとりも大変勉強になっております^^
アウトプットありがとうございます。
>腸管の走行的にCorが非常に見やすい症例でした。
絞扼性腸閉塞ではしばしば横断像よりも冠状断像で全体像がわかりやすいことが多いですね。
>これまでの症例でも何回か見られた絞扼部の先に見られる?であろう腸管壁肥厚がまたあり、これも腸閉塞における1つのsignとして確認してみようと思います。
確かに294 / 334など右腹部に壁肥厚を認めていますね。
最近、クローズド・ループ様の所見があり絞扼性腸閉塞かなと思っていた患者様が、経過観察で軽快して癒着性腸閉塞とされた症例がありました。
クローズド・ループの所見だけでなく、動画で解説して頂いた「絞扼性腸閉塞を示唆するCT所見」を丁寧にひろっていくこと大切だと感じました。
アウトプットありがとうございます。
>最近、クローズド・ループ様の所見があり絞扼性腸閉塞かなと思っていた患者様が、経過観察で軽快して癒着性腸閉塞とされた症例がありました。
closed loopが経過観察で解除されることはたまにありますね。
手術になるかどうかは、症状や採血結果なども考慮されますね。
>クローズド・ループの所見だけでなく、動画で解説して頂いた「絞扼性腸閉塞を示唆するCT所見」を丁寧にひろっていくこと大切だと感じました。
そうですね。大量の血性腹水が出ていたり、単純CTで高吸収であったり、壁内気腫など認めている場合は経過観察している場合ではないかもしれませんね。
closed loopまではわかったのですが、『機械的単純イレウス』としました。虚血がわからなかったので単純としましたが、単純というのには語弊があるかと思いますが、虚血は今のところ見られないが、絞扼し虚血が考えられる場合の表現は単純か複雑かを記載しない『絞扼性イレウス』がふさわしいでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
>虚血は今のところ見られないが、絞扼し虚血が考えられる場合の表現は単純か複雑かを記載しない『絞扼性イレウス』がふさわしいでしょうか?
closed loopを形成している場合は、虚血を疑う所見がなくても今後血流障害を生じる可能性がありますので、絞扼性腸閉塞となります。
分類としては、機械性複雑性腸閉塞となります。
いつもわかりやすい解説をしていただき誠にありがとうございます。
closed loopの解説、わかりやすかったです。
285-292/334にwhirl signを認めていると考えたのですが、正しいでしょうか。
また、動画内でも触れられていたの閉塞の腸側⁇の3層構造が明瞭化している部位についてですが、一般的にどのような原因・鑑別が挙げられるでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
>285-292/334にwhirl signを認めていると考えたのですが、正しいでしょうか。
そうですね。ちょうどclosed loopを形成しているところの近くに認めており、(有意な)whirl signといえます。
>動画内でも触れられていたの閉塞の腸側⁇の3層構造が明瞭化している部位についてですが、一般的にどのような原因・鑑別が挙げられるでしょうか?
3層構造を保った小腸の壁肥厚を見た場合、単なる小腸炎としてはいけない、というのは腹部救急画像診断に参加された方はご存じの通りです。
どのようなこと考えなければならないかはこちらの動画で復習してください。
では今回は何を見ているのか、何を反映しているのかということですが、正直正解はわかりません。
closed loopを形成した腸管は最初は今回の症例のように液貯留を認めて拡張しているのが一般的ですが、このまま時間が経過するとclosed loopを形成している部位の腸管が3層構造を保った壁肥厚を来すことがあります。
ただし、今回肥厚を認めているのはclosed loop外の腸管です。
・もともと同部もclosed loopに含まれていたが、解除された。
・closed loopにより同部からの静脈の一部が巻き込まれ、同部の静脈灌流が低下している。
などが推測されますが、推測の域を出ません。
いつもありがとうございます.
今回の解説動画でclosed loopに対する理解が深まりました.beak signの数(3か所)をきっかけにclosed loop形成を疑うこと,拡張した口側腸管とclosed loopを分けて読影することを理解できました.
また,病歴からは経過が長く症状の軽い症例と思われ,絞扼性腸閉塞にも幅があることを認識できました.
今後とも,よろしくお願いします.
アウトプットありがとうございます。
>今回の解説動画でclosed loopに対する理解が深まりました。
よかったです。
>beak signの数(3か所)をきっかけにclosed loop形成を疑うこと,拡張した口側腸管とclosed loopを分けて読影することを理解できました.
今回はそれほど目立ちませんが、腸間膜の浮腫をきっかけにclosed loop形成を疑う→beak signを探すという流れになることが実際は多いです。
>絞扼性腸閉塞にも幅があることを認識できました.
そうですね。締められ方に強弱があるのだと考えられます。
いつもありがとうございます。
本題からは外れてしまうのですが、前立腺右葉移行域に低吸収結節を認めています。過形成結節でもよいとは思うのですが、PSAの測定などを勧めるべきでしょうか。触れずにスルーしてもよい所見でしょうか。。。
アウトプットありがとうございます。
確かに少し目立ちますので、指摘した方がよいですね。
スルーしない方がいいです。
追記します。ありがとうございます。
腹部救急症例26も復習しました。
やばいclosed loopを見抜くには
拡張腸管をあきらめずに追って、3つのbeak signを探す。
腸間膜の浮腫に気づく。
腹水貯留もチェック。
血行障害がありそうな場合は、
単純CTなら腸管壁が造影CTのように高吸収となっている。
造影CTなら造影効果が乏しいあるいは見られない。
そして外科にすぐコンサルト。
アウトプットありがとうございます。
>やばいclosed loopを見抜くには
拡張腸管をあきらめずに追って、3つのbeak signを探す。
腸間膜の浮腫に気づく。
実際には、
腸間膜の浮腫に気づく→(まさか・・・)→周囲にbeak signがないかを探す。
という流れの方が多いと思います。
>単純CTなら腸管壁が造影CTのように高吸収となっている。
これは出血性梗塞を反映していると言われており、腸管壊死を疑う所見ですね。
これがなくても血行障害があることはありますので注意必要です。
大きなヒントをありがとうございました。
施設や外科医によって考え方が異なると思うのですが、腸閉塞疑いの際に動脈相まで撮影すべきか迷います。
SMA閉塞など血管系の異常というよりは機械性腸閉塞を強く疑っていたとしても、虚血の有無をより正確に評価するために動脈相も必要と先生はお考えでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
悩ましいところではありませすね。
理想を言えば、単純→ダイナミックCTですが、動脈相を撮影しないと治療方針が変わるということはあまりないような気もしますので、必須ではありません。
単純→造影平衡相のみ
でも良いと思います。
造影効果を判別する意味でも、単純は欲しいところですね。
施設によっては単純を軽視されて撮影されないことがありますので。。
このような場合、closed loopがぱっと見だと分かりにくいですね(・・;) 虚血にもなっていないし、放置してしまいそうです´д` ;
メルマガについて
大文字山、とてもきれいですね。
でも、さむそーヽ(´o`
メタボはこたつでまるくなってます。
アウトプットありがとうございます。
>closed loopがぱっと見だと分かりにくいですね(・・;) 虚血にもなっていないし、放置してしまいそうです´д` ;
造影効果も保たれていますし、腸間膜の浮腫もそれほど目立たないのでスルーしそうですが、beak signはわかりやすいのでそこからbeak signが一カ所ではないことに気づきたいところですね。
>大文字山、とてもきれいですね。でも、さむそーヽ(´o` メタボはこたつでまるくなってます。
思ったより動いていると寒くなかったです。山頂でカップ麺を食べているとすぐに寒くなりましたが・・・。
メタボ先生も是非、ハイキング報告お待ちしております。
いつも丁寧な解説を頂き、感謝しております。腸間膜脂肪織の浮腫、クローズドループ、腸管壁の造影不良・・・これらの所見を見落とすことがあり、今後克服したいと思います。問題編と解答編の病歴の記載が微妙に異なっていることに気づきました。
アウトプットありがとうございます。
>腸間膜脂肪織の浮腫、クローズドループ、腸管壁の造影不良・・・これらの所見を見落とすことがあり、今後克服したいと思います。
今回はclosed loopに少し気づきにくかったかもしれませんね。
>問題編と解答編の病歴の記載が微妙に異なっていることに気づきました。
ご指摘ありがとうございます。
修正しました。
これまでの症例は何とか正解できていたのですが…
腸間膜の浮腫やbeak signが3つあることを見逃してしまい…オペ歴もあることから癒着性腸閉塞疑いとしてしまいました。
派手なものでなくても、気を付けて見ないといけないですね。反省です。
この感じだと、単純CTでも腸管壁のうっ血による高吸収は見られなさそうですよね…
アウトプットありがとうございます。
>腸間膜の浮腫やbeak signが3つあることを見逃してしまい…オペ歴もあることから癒着性腸閉塞疑いとしてしまいました。
機械性単純性腸閉塞と診断する際にも「閉塞機転はここが疑わしい」とカルテにも記載していただきたいですが今回ですと295/334あたりになりますが、そこでどこが閉塞機転かと考えると「あれ?」とbeak signが複数あることに気付いていただきたいです。
>この感じだと、単純CTでも腸管壁のうっ血による高吸収は見られなさそうですよね…
単純CTでの腸管壁の高吸収は、うっ血による高吸収ではなく、絞扼後、出血性梗塞を来した際に見られます。
絞扼性腸閉塞
→静脈が絞扼される
→動脈が絞扼される
→腸管が壊死に陥る
→血管壁が脆くなり、腸管壁に出血を来し、腸管壁が単純CTで高吸収となる(出血性梗塞)。
というおおまかな機序です。
ですので、この時点では壊死が確定している状態ですので、単純CTで高吸収となっている段階では、今回のように造影効果を認めることは通常ありません。
いつも勉強させていただいています。
closed loopはすぐに確認できたのですが、腸間膜の軽度の浮腫に気づけませんでした。腸間膜の浮腫に先に気づいて、それをきっかけに絞扼性腸閉塞の診断ができるようになりたいと思います。
ところで、closed loopの肛門側の腸管がすぐに虚脱するのではなくて、絞扼部のすぐ肛門側では、むしろ少し拡張しているように見えたのですが、このようなことは良くあるのでしょうか。また何故そうなるのでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
>ところで、closed loopの肛門側の腸管がすぐに虚脱するのではなくて、絞扼部のすぐ肛門側では、むしろ少し拡張しているように見えたのですが、このようなことは良くあるのでしょうか。また何故そうなるのでしょうか?
絞扼部のすぐ肛門側は293 / 334あたりの臍のすぐ背側の小腸となりますがここは特に拡張していません。
肛門側は虚脱することが多いですが、絞扼腸閉塞を来している腸管も現状は蠕動運動していますので、絞扼部位が少しずれたりして拡張が肛門側に少し残ることは考えられます。必ず虚脱するというわけではありません。
主訴が黒色吐物とのことでしたが、絞扼性腸閉塞が出血と関係しているのでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
カルテを参照したところ、結局黒色の原因はわからなかったようです。胆汁などの嘔吐だったのかもしれません。
上行結腸の脂肪織濃度上昇、粘膜下肥厚がややあるような気がしました。炎症の主座となるような憩室は見当たらず、憩室炎とはいいがたいですが、何らかの炎症があってそれが近位にある小腸に波及して、小腸の粘膜下肥厚が生じているのかと思いましたがいかがでしょうか。
アウトプットありがとうございます。
この方上行結腸に憩室が多数ありますね。
そしておっしゃるように286/334あたりでは右腎に接するような下に凸の線が見えて、腎筋膜の肥厚を示唆する所見です。
軽い憩室炎を起こしている(あるいは過去の瘢痕をみている)可能性はありますが、結腸の粘膜下層の肥厚や3層構造がはっきりした部位は認めないと考えます。
また憩室炎があるとしても先ほどの286/334あたりが炎症の主座であり、結腸の腹側に小腸の壁肥厚を認める297/334 あたりは憩室は目立ちますが炎症所見は見当たらないので、憩室炎→小腸への炎症波及とするには少し無理がありそうです。