
症例10
【症例】 50歳代女性
【主訴】 腹痛
【現病歴】前日生レバーを食べた。今朝に排便あり。 昼前に突然発症の腹痛を生じ、当院救急外来を受診した。
【既往歴】 子宮筋腫にてで子宮全摘後
【身体所見】 意識清明、腹部:平坦、軟、下腹部やや左を中心に圧痛・反跳痛あり、筋性防御あり
【データ】WBC 7800、CRP 0.07
画像はこちら
今回の症例ではそれほど目立ちませんが、左の下腹部に小腸の拡張、液貯留を認めています。
下腹部を見ると、腸間膜の浮腫が非常に目立つ腸管群があることに気づきます。
またこの近くでは腸管が急に細くなっている部位(※)を認めており、closed loopを形成していることが疑われます。
より尾側を観察すると、腸間膜浮腫を伴った腸管群の様子および、腹水が貯留している様子が分かります。
ダイナミックCTの早期相でこの部位を観察してみますと、他部位の腸管と比べて、明らかにこの部位に造影不良があることがわかり、少なくとも虚血の状態に陥っていることが分かります。
closed loopを形成した腸管群は扇状に見られることがよくありますが、その様子は冠状断像や時に矢状断像でわかりやすいことがあります。
今回の症例も冠状断像でその様子がよく分かります。
診断:絞扼性腸閉塞(少なくとも腸管虚血あり)
※緊急手術となりました。
~~~~~~~~~~~~~~手術記録より抜粋~~~~~~~~~~~~~~
腹水は中程度認め、血性であった。
下腹部にS状結腸結腸垂と膀胱が癒着して内ヘルニア門を形成し、そこより約20cmの小腸が絞扼していた。
絞扼していた小腸を愛護的に引き抜き、癒着を切離した。
絞扼した小腸はうっ血を中心とし、壊死を認めず、経時的に色調や蠕動は改善した。
腸切は施行せず。
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腸管虚血は認めていましたが、早期手術が施行されたためか、腸管壊死には至っておらず、腸切除は施行されませんでした。
その他所見:
- 微小肝嚢胞あり。
- 左傍腎盂嚢胞あり。
- 腹水貯留あり。
症例10の動画解説
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。

異常の場所はわかりましたが3層になっている部分が重積なのかと思い、小腸で起こるものか?また浮腫なのか?わかりませんでした。
解説を見てクローズドループでこのように浮腫がある場合を認知したことがなかったのですが希にあるものでしょうか?
ありがとうございました。
アウトプットありがとうございます。
重積の場合は脂肪濃度が内腔に見られるのが特徴でした。
>クローズドループでこのように浮腫がある場合を認知したことがなかったのですが希にあるものでしょうか?
https://diagnostic-imaging-bootcamp.com/wp-content/uploads/2021/04/target-water-pattern.png
こちらにあるように小腸の3層構造を保った壁肥厚を見た場合はclosed loopを鑑別に挙げる必要があります。
液貯留で拡張した腸管となることが多い印象ですが、壁肥厚を認めることもありますので覚えておいてください。
平衡相でも造影不良が確認できたので確実に壊死に至っていると思ったのですが、ここまで顕著でも対処が早ければ壊死していないケースもあるのですね。
造影不良はあくまでも血流状態の反映であると再認識しました。
アウトプットありがとうございます。
>平衡相でも造影不良が確認できたので確実に壊死に至っていると思ったのですが、
この判断は読影する人によって分かれるところかもしれません。
少なくとも早期は落ちていますので、虚血ありとして外科にコンサルトできることが重要ですね。
黒いもの=脂肪濃度を読影の際に意識できていない気がします。どうしても白いものばかりに目線が動きますが黒いものにも気を配らないと腸管膜の浮腫にしっかり気づけないですね
アウトプットありがとうございます。
本来腸間膜の脂肪は真っ黒で認識できないのに、それが認識できるほど浮腫が強くなっていれば異常所見であると気づく必要があります。
そしてそのような腸管の塊(腸管群)を見つけたらclosed loopを作っているのではないかという目で探す必要があります。
「前日生レバーを食べた。今朝に排便あり。」という主訴だけを見ると、腸炎かなと思ってしまいます。しかし、系統的に画像を見ていくとクローズド・ループ形成がありそうだとわかります。
系統的読影の大切さを実感します。
アウトプットありがとうございます。
>「前日生レバーを食べた。今朝に排便あり。」という主訴だけを見ると、腸炎かなと思ってしまいます。
ですね(^_^;)特に禁止されている今ならばよりそっちを考えてしまいます。
>しかし、系統的に画像を見ていくとクローズド・ループ形成がありそうだとわかります。
系統的読影の大切さを実感します。
系統的読影大事ですね。
いつも大変お世話になっております。
今回、バウヒン弁~回盲部~上行結腸の粘膜下浮腫がやや目立ち、周囲の脂肪織濃度上昇がわずかに見られるように思いました。
(上行結腸周囲の腹水は、膀胱直腸窩から傍結腸溝を伝ってきたものでしょうか。)
「上行結腸の粘膜下浮腫やわずかな脂肪織濃度上昇は、健常者でもよくある所見なので、異常と断定しないように」と指導医からレクチャーされた覚えが無きにしもあらずですが、
今回の所見はその正常範囲内ということでしょうか。
それとも、私の所見が間違っているのでしょうか。
お忙しいところ、恐縮です。
アウトプットありがとうございます。
>今回、バウヒン弁~回盲部~上行結腸の粘膜下浮腫がやや目立ち、周囲の脂肪織濃度上昇がわずかに見られるように思いました。
>「上行結腸の粘膜下浮腫やわずかな脂肪織濃度上昇は、健常者でもよくある所見なので、異常と断定しないように」と指導医からレクチャーされた覚えが無きにしもあらずですが、今回の所見はその正常範囲内ということでしょうか。
おっしゃるとおり正常範囲です。
回盲部のところは今回のように脂肪濃度が目立つことがあります。
関連
https://xn--o1qq22cjlllou16giuj.jp/archives/38078
突然発症の腹痛であることと単純CTで腸間膜の浮腫と腹水を認め、
closed loopを形成する絞扼性腸閉塞と推測できました。
単純CTで腸管壁の高吸収はこの症例ではないとの解説でしたが、
68/279あたりは高吸収のように思いましたが、有意ではないのですね。
腸管の拡張が強くないとか、beak signがはっきりしないとか、いろんなバリエーションがあって腸閉塞は奥深いですね。
アウトプットありがとうございます。
>突然発症の腹痛であることと単純CTで腸間膜の浮腫と腹水を認め、
closed loopを形成する絞扼性腸閉塞と推測できました。
素晴らしいです!
>単純CTで腸管壁の高吸収はこの症例ではないとの解説でしたが、
68/279あたりは高吸収のように思いましたが、有意ではないのですね。
単純CTでの壁の高吸収の評価って難しいですね。
症例1と比べるとやはり高吸収とは言いにくいですね。
症例1
https://imaging-diagnosis.com/view/qU2Zm4CY
また造影では今回単純CTと比較して造影されていますので、造影との比較も重要ですね。
(造影CTがない場合は単純のみで判断しなくてはならないですが)
>腸管の拡張が強くないとか、beak signがはっきりしないとか、いろんなバリエーションがあって腸閉塞は奥深いですね。
おっしゃるとおりです。
いつも典型的で綺麗なbeak sign等が見られるわけではありません。
腸間膜の浮腫を有する腸管群を手がかりに、横断像だけでなく冠状断像なども参考に評価する必要があります。
いつもお世話になっております。
画像診断まとめ(https://遠隔画像診断.jp/archives/5542)を見ても、今回の様な単房性の傍腎盂嚢胞と腎外腎盂の区別の仕方が分かりません。お手数ですがどう区別したら良いのかご指導いただきたいです。よろしくお願いいたします。
アウトプットありがとうございます。
腎外腎盂の場合、腎盂ですので、尿管との連続性を認めます。またダイナミックCTの排泄相が撮影されれば、腎外腎盂そのものに造影剤を認めます。
傍腎盂嚢胞の場合、尿管との連続性がありません。単発のこともありますが多発していることもあります。またダイナミックCTの排泄相が撮影されても、嚢胞内に造影剤は認めません。
以上の点で鑑別します。
なるほど!ありがとうございます!
脾臓の切れ目に脾周囲・肝周囲の腹水から,脾損傷→腹水?と思ってしまったのですが,脾臓の切れ目はなんと表現したら良いのでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
脾臓の切れ目はくびれているだけだと思います。
冠状断像の121 / 141あたりでは今回の目立つくびれの左側にもくびれをみとめています。
いつも勉強させて頂いております。放射線技師です。
閉塞起点が見つけられずトンチンカンな答えを出してしまいました(TдT)腸閉塞ブートキャンプなのに浅はかでした…
今回、胃中のAirが重力に逆らったような分布になっているように見えますが、ひだが深くてAirがひっかかって?いるということでしょうか?
また胃の壁にも気腫を生じることはあるのでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
>胃中のAirが重力に逆らったような分布になっているように見えますが、ひだが深くてAirがひっかかって?いるということでしょうか?
おっしゃるようにヒダにairが引っかかっているだけですね。
壁内気腫が広汎な場合、胃壁にも認めることはありますが、胃壁にだけ認めるというケースはあまりないかもしれません。
(絵的に)興味深い症例でした。
closed loop→絞扼性イレウス というつながりが身について来たので、10例目にして効果を感じています(^^)
アウトプットありがとうございます。
>closed loop→絞扼性イレウス というつながりが身について来た
腸間膜の浮腫を伴った腸管群が見えるようになってきたようでよかったです!
冠状断88/141、91/141の左小腸でも狭窄を認めるようにみえるのですが、これは有意ではないでしょうか。また、腹水が尿よりもやや高吸収に見えます。
アウトプットありがとうございます。
腹水は確かに少し尿より高吸収ですので血性の可能性はありますね。
また冠状断像でおっしゃるようにbeak signを同部に認めており、これも有意ですね・・・。
確かにこの部位も骨盤内ほどではありませんが、腸間膜の浮腫を認めています。
何かヒントはないかと、今一度手術記録を見直してみます。
手術記録を見直しましたが同部についての記載はありませんでした。
左下腹部から右下腹部に向かって腸管が嵌頓していた。と記載がありましたのでやはり嵌頓しているのは下腹部で合致しています。
指摘していただいた所見はbeak signであり、有意な所見です。
ただ、その前後で腸管の様相に変化がないこと、指摘していただいた様に2カ所のbeak signがあることから一時的に短い範囲で(バルーンアートのように)腸管がねじれてしまった(そのようなことが起こるのかわかりませんが・・・)のかもしれません。閉塞機転はこちらだったのかと思い見直しましたがそうではなさそうです。
配信当日に画像を見ても、何かおかしいのには気づきつつも所見が整理できず(たぶん生レバーの食事歴に思考が引っ張られて)、今日もう一度、画像だけ集中して見直し、腸間膜の浮腫や造影不良も含めた腸閉塞の主だった所見を拾うことができました。成長が感じられた症例でした!
アウトプットありがとうございます。
>たぶん生レバーの食事歴に思考が引っ張られて
ひっぱられますよね・・・。
>今日もう一度、画像だけ集中して見直し、腸間膜の浮腫や造影不良も含めた腸閉塞の主だった所見を拾うことができました。成長が感じられた症例でした!
よかったです。腸閉塞に限らずですが日を変えると閉塞機転や病変が見えることはよくありますね。
実際の臨床の現場ではそんなことはできませんが、こちらでは猶予がありますので、是非そのように日を変えて取り組んでいただけたら幸いです。
radiopaediaで絞扼性腸閉塞(strangulating-bowel-obstruction)を検索したところ、
放射線学的特徴 CTの欄に“絞扼された腸管の最も特異的な所見は腸管壁の造影効果の低下(約95%)であり、
最も感度の高い所見は腸間膜に浮腫性変化(約90%)です”との記載があり、言い換えると
絞扼性か迷うCTを見た際に広範囲の腸間膜浮腫が無ければ90%確率で著明な血流障害を否定可能で、また絞扼されている可能性のある腸管群に造影効果の低下が見られた場合は95%確率で重要な血流障害が起きていると指摘できる、と言う内容なのでしょう。
絞扼性腸閉塞では時間とともに血流障害が進行していくので、どの段階で検査をするかで画像は変化していきます。
腸管の血流障害については腸管壁の造影効果の低下と腸間膜の浮腫の2点を合わせてみるのがポイントなのでしょう。
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アウトプットありがとうございます。
>最も感度の高い所見は腸間膜に浮腫性変化(約90%)です”との記載があり、言い換えると絞扼性か迷うCTを見た際に広範囲の腸間膜浮腫が無ければ90%確率で著明な血流障害を否定可能で、また絞扼されている可能性のある腸管群に造影効果の低下が見られた場合は95%確率で重要な血流障害が起きていると指摘できる、と言う内容なのでしょう。
調べていただきありがとうございます。腸間膜の浮腫性変化の重要性がわかりますね。
>腸管の血流障害については腸管壁の造影効果の低下と腸間膜の浮腫の2点を合わせてみるのがポイントなのでしょう。
そうですね。腸間膜の浮腫性変化は単純CTでも指摘できますし、closed loopを来している特定の腸管群に認める点も重要ですね。