
症例15
【症例】70歳代男性
【主訴】腹痛
【現病歴】今朝から腹痛あり。全体的に痛い。特に左上の方。排ガスが今日はない。冷や汗が出る。
【既往歴】直腸癌術後
【身体所見】左側腹部〜上腹部に圧痛あり。腹膜刺激症状明らかなではない。軽度反跳痛。左下腹部に術後瘢痕あり。
【データ】WBC 7700、CRP 0.02
画像はこちら
小腸の拡張、液貯留、ニボー像を認めています。
閉塞機転はないでしょうか?
左腹部に腸間膜の浮腫が目立つ腸管群があることに気づきます。(是非気づきたい所見です。)
このような腸間膜の浮腫を見た場合、同部でclosed loopの形成があるのでは!?という目で見ないといけません。
closed loopを疑う腸管を下部に追うと、(少し分かりにくいですが)3つのbeak sign(※)を認めていることがわかります。
やはりclosed loopを形成しているようです。
冠状断で逆C字型の腸間膜の浮腫が目立つclosed loopがわかりやすいです。
それ以外の腸間膜の浮腫を認めていない拡張腸管は口側腸管と判断でききます。
冠状断でも(少し分かりにくいですが)、beak signを指摘できます。
造影効果はどうでしょうか?
closed loopを形成する腸管は拡張した口側腸管と比較するとやや造影効果が落ちているようにも見えるが少し微妙です。
診断:絞扼性腸閉塞
※外科コンサルトとなり手術となりました。
~~~~~~~~~~~~~~~~~手術記録より抜粋~~~~~~~~~~~~~~~~~
大網同士が癒着して、内ヘルニアになっていた。
左下腹部の小腸は赤紫色に変色していたが、静脈のうっ血によるものと思われた。
腸管蠕動を認めたため、腸管切除はしない方針とした。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ということで、虚血には陥っていましたが、腸管壊死には至っていなかったとのことです。
その他所見:
- 胃内に残渣あり。
- 腎嚢胞あり。
- 直腸術後。
症例15の動画解説
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。

冠状断がbeak singを確認しやすかったです。冠状断/矢状断でも腸管を追跡できるように、トレーニングをしていきたいです。
アウトプットありがとうございます。
絞扼性腸閉塞では横断像よりも冠状断像で全体像がわかりやすいことが結構ありますね。
虫垂の同定のように横断像でよく分からない場合は冠状断像を積極的に観察したいですね。
今回はbeak signが微妙でした。Axial131の大動脈の1時方向(大動脈2つ分くらいの距離)に小腸の拡張がおさまる部分がありclosed loopの起点と異なることからも迷ってしまいました。closed loopの部分の腸管の様子がおかしいのでやはりそうだと思いましたが、やはりbeak signをしっかり見つけて自信をもってここがおかしいと言えるようになりたいです。解答を見た後見返すとbeak 有ですね。つながっていると思ってしまってました。頑張ります。ありがとうございました。
アウトプットありがとうございます。
>今回はbeak signが微妙でした。
そうですね。横断像も冠状断像もわかりやすいbeak signはないので見落としてしまいがちですね。
>解答を見た後見返すとbeak 有ですね。つながっていると思ってしまってました。頑張ります。ありがとうございました。
腸間膜の浮腫が目立つ腸管群の近くにあるはずという眼で探さないと厳しい症例でした。
ESPRESSO救急腹部当初はイレウスと腸閉塞の違いや内ヘルニアのイメージなど全然つかめていませんでしたが、絞扼部位や原因、腸管の状態などをパッと想像できるようになってきました。
今回の腸閉塞ブートキャンプ含め、繰り返しにより読影力が向上している実感があります ^^
アウトプットありがとうございます。
>絞扼部位や原因、腸管の状態などをパッと想像できるようになってきました。
何が原因で内ヘルニアを生じているのかまではわからないことの方が多い(ほとんどは癒着や索状物などによるので)ですが、おかしな腸管群を探す、おかしな腸管群に気づくという視点に立つと見つかりますね。
>今回の腸閉塞ブートキャンプ含め、繰り返しにより読影力が向上している実感があります ^^
嬉しいお言葉ありがとうございます!
ここで折り返し地点となりますので、引き続き後半もよろしくお願いします。
今日もありがとうございます。open loopとclosed loopと肛門側の腸管が横断像No.50の一断面で確認できて綺麗な症例だなと思いました。
アウトプットありがとうございます。
>open loopとclosed loopと肛門側の腸管が横断像No.50の一断面で確認できて綺麗な症例
単純CTではこの50の1スライスが肝ですね。
よく見ないと難しいですが。
いつも大変勉強になっております.
動画解説によると腸管壁内ガスなしとのことなのですが,腸管壁内ガスあり,と取ってしまいました.例えば143-146などです.このくらいでは腸管壁内ガスとは言わないのでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
壁内なのか、腸管管腔内なのか、判断に難しいこともありますが、やはり重力を無視してairが存在している場合に壁内ガスを疑います。
今回は重力を無視せず上の方だけに存在している点からも腸管の管腔内に存在すると判断できます。
腸間膜の浮腫のところがおかしいとチェックできてよかったです。
beak signははっきり指摘できませんでしたが、closed loopの末梢の細くなった腸管は指摘できました。やばい腸閉塞(絞扼性腸閉塞)と判断できて良かったです。
アウトプットありがとうございます。
>腸間膜の浮腫のところがおかしいとチェックできてよかったです。
よかったです!
「腸間膜の浮腫を制するものが絞扼性腸閉塞を制する!」
ですね。
>beak signははっきり指摘できませんでしたが、closed loopの末梢の細くなった腸管は指摘できました。
横断像でわかりにくい場合は冠状断像なども参考にしてください。
本講座で、分からないなりについていくと、なんとなく分かってきたような気がする瞬間があってうれしいです。
さて、腸閉塞とは直接関係ないかもしれませんが、両側腎周囲の脂肪織の濃度が上がっているように見え、腎レベルでの左側の壁側腹膜が肥厚しているように見えるのは病態と関係があるのでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
>本講座で、分からないなりについていくと、なんとなく分かってきたような気がする瞬間があってうれしいです。
ありがとうございます。
30症例終わる頃には、「もうお腹いっぱい」「もうわかったからしつこい」となっていただけたら幸いです。
>両側腎周囲の脂肪織の濃度が上がっているように見え、腎レベルでの左側の壁側腹膜が肥厚しているように見えるのは病態と関係があるのでしょうか?
本所見は個人差などあり非特異的所見です。
片側のみであれば、腎盂腎炎や尿管結石などで見られることがありますが、今回のように特に左右差ない場合は有意ではないことが通常です。
過去画像があればそれとの比較も大事ですね。
beak signを見つけられませんでしたが、腸間膜浮腫があり絞扼性を疑うことができました。逆に前回の症例はbeak signが3ヶ所ある!と勘違いしてしまったので、連続性がわかりにくいところを注意しようと思います。
先日実際に絞扼性腸閉塞を見つけることができました。腸閉塞ブートキャンプを始める前よりも、少しCTが読めるようになった気がします。ありがとうございます。頑張って続けていきたいです。
アウトプットありがとうございます。
>腸間膜浮腫があり絞扼性を疑うことができました。
よかったです。
「腸間膜の浮腫を制するものが絞扼性腸閉塞を制する!」
ですね。(しつこい)
>逆に前回の症例はbeak signが3ヶ所ある!と勘違いしてしまったので、連続性がわかりにくいところを注意しようと思います。
そうですね。癒着が強い症例などでは、単純性腸閉塞でもそのように見えてしまうこともありますので注意が必要です。
過剰に所見を取るのは悪いことではないと思います。
むしろ絞扼性腸閉塞を、「イレウス」などとして内科入院させる方が問題ですので。
>先日実際に絞扼性腸閉塞を見つけることができました。腸閉塞ブートキャンプを始める前よりも、少しCTが読めるようになった気がします。ありがとうございます。頑張って続けていきたいです。
嬉しい報告ありがとうございます(^^)
先はまだまだ長いですが、是非続けてください!
腸間膜の浮腫に気付けませんでした!
それから、造影効果はないと思われ、絞扼性ではないと考えてしまいました!
先生のお陰で知識が整理されました。ありがとうございました。
アウトプットありがとうございます。
腸間膜の浮腫はわずかなこともありますが、絞扼性腸閉塞を疑う上で非常に重要な所見なので、冠状断像も観察してしっかり確認するようにしてください。
>先生のお陰で知識が整理されました。ありがとうございました。
次回地雷(絞扼性腸閉塞)があれば、無事発見、除去(外科コンサルト)を期待します(^^)
今回、上部消化管から見始めて、胃〜幽門部・12指腸にかけて口径差がかなりあるように感じ、ん!?となりました。小腸拡張、腸間膜の浮腫に気づけて小腸の絞扼性腸閉塞の診断には至れました。上部消化管の拡張・口径差は生理的な範疇でしょうか?
アウトプットありがとうございます。
>上部消化管の拡張・口径差は生理的な範疇でしょうか?
幽門部に腫瘍があってそれよりも口側の胃や十二指腸が拡張を来すことがあります(いわゆるピロステ(幽門狭窄(pyloric stenosis)))が、今回の胃の拡張の程度はよくある生理的なものです。
また、幽門部あたりに腫瘍を疑うような所見は認めていません。
ですので、これくらいの上部消化管の拡張・口径差は生理的な範疇です。
いつも非常に勉強になります。ありがとうございます。
冠状断の23/154のスライスでみえている像は、腸管壁内気腫にはならないのでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
1スライスだけみるとそのようにも見えてしましますが、冠状断像の100/154では認めていないので有意ではないと考えられます。
壁内気腫を認めていたら横断像でも確認できるのが一般的ですが、横断像でも確認できません。
closed loopに気づきませんでした。
「丸くなっている」ことは意外と多い気がして(今回も見えてはいました…)、絞扼所見と結び付けられないことがあります。。
アウトプットありがとうございます。
丸くなっていることは絞扼性でなくても見ることはありますが、今回も腸間膜の局所的な浮腫に違和感を抱き、その腸管の周辺を追ってみることをしたい症例ですね。
すると閉塞機転があることに気付けます。