
症例21
【症例】70歳代男性
【主訴】腹痛
【現病歴】肝硬変・肝細胞癌にてかかりつけの方。約9時間前に食後より腹痛出現。症状が徐々に増悪し、嘔吐出現したため来院。
【既往歴】肝硬変、肝細胞癌(RFA、TACE後)
【身体所見】意識清明、表情苦悶様、BT 36℃、BP 129/78mmHg、P 88bpm、SpO2 97%(RA)、右上腹部から心窩部にかけて圧痛あり、反跳痛なし、筋性防御あり。
【データ】WBC 5800、CRP 0.16
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小腸の拡張、液貯留、ニボー像を認めています。
閉塞機転はないでしょうか?
ちょっと気づきにくい所見かもしれませんが、胸腔内に腸管が逸脱しているように見えます。
冠状断像で見れば一目瞭然ですね。
横隔膜を超えて胸腔内に嵌頓した腸管の様子がよく分かります。
造影CTで見てみると嵌頓した腸管は(嵌頓していない部分の腸管と比べると)やや造影効果が落ちているように見えます。
診断:右横隔膜裂孔ヘルニア嵌頓による小腸腸閉塞
※腹腔外に逸脱していますので、外ヘルニアとなります。
※外科コンサルトの上手術となりました。
~~~~~~~~~~~~~手術記録より抜粋~~~~~~~~~~~~~
右横隔膜に約1-2cmのヘルニア門を認めた。
回腸末端から約30cmの小腸が嵌頓していた。
横隔膜を切開し、腸管を腹腔内に牽引して嵌頓を解除した。
腸管は絞扼部位が暗赤色に変化していた(約10cm)。
小腸部分切除を施行した。
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ということで、やはり造影効果が落ちているように見えたのは虚血〜壊死を示唆する所見でした。
外ヘルニアは通常、腹壁や鼠径部に認めますが、今回は特殊型ですね。
その他所見:
- 右胸水あり。
- 前縦隔嚢胞あり。
- 肝硬変あり。TACE,RFA後。肝嚢胞あり。
- 腎嚢胞あり。右腎やや萎縮あり。
症例21の動画解説
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。

閉塞起点部位は特定できましたが、横隔膜裂孔ヘルニアという発想がありませんでした。
腹膜構造の理解が乏しかったです。
(ごろー先生が腹腔解剖の詳細な解説を作ってくれていた気がしますが、いつも投げ出していました(^_^;) )
アウトプットありがとうございます。
閉塞機転が特定できたらならOKです。
腹膜腔から逸脱していますので腹膜構造はあまり関係ないです。
腹部の小腸拡張と少し離れたところに、カブトムシの幼虫みたいなヘルニアがあったのですね…。見落としていました。横隔膜裂孔ヘルニアは、初めてなので良い経験になりました。
アウトプットありがとうございます。
>カブトムシの幼虫みたいなヘルニアがあったのですね…。見落としていました。
カブトムシの幼虫・・・・。確かにそのようにも見えますね。こっそり寝ている模様です。
>横隔膜裂孔ヘルニアは、初めてなので良い経験になりました。
外ヘルニアの中でも決して頻度は高くありませんが、特殊型ということで。
横隔膜ヘルニアは見つけていましたが、違うところが原因と思ってしまいました。肺野内だと部分体積効果で壁のCT値が落ちているのではないかと思いましたが、手術所見からその考えが間違っていることがわかりました。ありがとうございます。
アウトプットありがとうございます。
造影効果については、今回は明らかな低下とは言えないので難しいですね。
横隔膜ヘルニアを見つけられたらOKです。
横断像では意外と横隔膜ヘルニアがわかりにくいですね。こういう時は冠状断などが有用ですね
アウトプットありがとうございます。
そうですね。冠状断像ですとC字型の嵌頓腸管が一目瞭然ですね。
今回も冠状断像に大いに助けられました。
左腎周囲の類円形の結節260~266/319は何でしょうか。
アウトプットありがとうございます。
虫垂と腸閉塞には冠状断像は欠かせませんね。
>左腎周囲の類円形の結節260~266/319は何でしょうか。
腎嚢胞ですね。
いつも貴重な症例有難うございます。横隔膜裂孔ヘルニアを始めて見たとき、めちゃめちゃ飛び出していたのでビックリしたことを覚えています(やはり左からでした。)。今回、腸閉塞を来たすこともあると、初めて知りました。
アウトプットありがとうございます。
>めちゃめちゃ飛び出していたのでビックリしたことを覚えています(やはり左からでした。)
そうなんですね。それはビックリしますね。肺野にまで到達しているのかとびびるかもしれません。
>今回、腸閉塞を来たすこともあると、初めて知りました。
外ヘルニアの特殊型(応用版)で、メジャーではありませんが、もはやどこからでも外ヘルニアは起こりえますね。
今回の症例は横断像のみ見ていると見落としがちだと思います。冠状断像だとすぐですが。
RFA関連の横隔膜裂孔ヘルニアでしょうか?
私もRFA関連のものを数例経験したことがあります。初めて経験した際、外科医からRFAによって起き得ることを教えてもらいました。
アウトプットありがとうございます。
>私もRFA関連のものを数例経験したことがあります。初めて経験した際、外科医からRFAによって起き得ることを教えてもらいました。
RFA関連とは考えていませんでしたが、おっしゃるようにそうなのかもしれません。
ちょっと関連を文献で調べてみたのですが、見つけることはできませんでした。
貴重な体験ありがとうございます。
まだまだ見落としが多いです。まぁ、見落とした経験のあるところを集中してみてしまっているので、逆に講座での見落としをいい経験としてとらえたいです(^^;
アウトプットありがとうございます。
>逆に講座での見落としをいい経験としてとらえたいです(^^;
今回は外ヘルニアの好発部位ではないので少し難しかったかもしれませんね。
横断像ではっきりしなければ冠状断像(や矢状断像)での確認が重要だと教えてくれる症例ですね。
胸腔の液体貯留はヘルニア水というよりも胸水の分布異常でしょうか
アウトプットありがとうございます。
右胸水を認めていますが分布異常ではありません。
それとは別に心臓の右側に前縦隔嚢胞を認めています。
morgagni孔ヘルニア嵌頓による腸閉塞と回答したのですが、今回のヘルニア門はmorgagni孔とはまた違いますでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
右心横隔膜角に大網を疑う脂肪織も認めており、おっしゃるようにmorgagni孔なのだと考えます。
場所も横隔膜前部で傍胸骨に合致しますし。