
症例23
【症例】70歳代女性
【主訴】下腹部痛・嘔吐
【現病歴】2日前より腹痛あり。昨日嘔吐あり。症状改善しないため来院。
【既往歴】胃GISTに対して胃部分切除後。
【身体所見】BT 37.1℃、BP 128/77mmHg、腹部:平坦・軟、下腹部に圧痛あり。
【データ】WBC 10200、CRP 0.31
画像はこちら
小腸の拡張、液貯留、ニボー像を認めています。
閉塞機転はないでしょうか?
右鼠径部に腸管の逸脱・嵌頓を認めています。
明らかな逸脱腸管の造影不良は認めません。
診断:右鼠径部ヘルニア嵌頓による小腸腸閉塞
でもいいとは思いますが、より正確な診断はどうでしょうか?
鼠径部に認める外ヘルニアには以下のものがあり、鑑別点は以下の通りでした。
大腿・直接鼠径・間接鼠径ヘルニアの特徴と鑑別
鼠径靱帯の | 下腹壁静脈の | 関係が深いのは | 脱出方向 | |
大腿ヘルニア | 下(後) | 内側 | 大腿静脈、大伏在静脈 | 足方 |
内(直接)鼠径ヘルニア | 上(前) | 内側 | 足方 | |
外(間接)鼠径ヘルニア | 上(前) | 外側 | 精索(子宮円索) | 内側足方 |
鼠径ヘルニアと大腿ヘルニアの鑑別は上にあるように鼠径靱帯の上(前)か下(後)かという点です。
この図がわかりやすいです。
ここまでわかる急性腹症のCT第2版 図3 大腿ヘルニアの経路(右鼠径部を前足方から見た図)より引用改変
しかし、横断像では鼠径靱帯の同定は困難です。
そこで、冠状断像が必要となります。
今回の症例の冠状断像です。
右鼠径靱帯の背側から逸脱していますので、大腿ヘルニアであることがわかります。
また、以下の点も鑑別となるのでした。
症例12でも見たように、嵌頓した腸管と大腿動静脈がほぼ伴走している点は、大腿ヘルニアに特徴的でした。
今回も伴走しています。
一方、内鼠径ヘルニアの場合、逸脱腸管は尾側にかけて内側に向かうことが多いのでした。
診断:右大腿ヘルニア嵌頓による小腸閉塞
※手術となりました。
~~~~~~~~~~~~~~~手術記録より抜粋~~~~~~~~~~~~~~~
鼠径靱帯を露出し、鼠径靱帯外側で大腿輪から2横指の膨隆を認めた。
sacの剥離の最中に腹膜が裂けているのを確認でき、腸管虚血は軽度であった。
(中略)
大腿輪外側から大腿輪内側から引抜きを同時に行い嵌頓を解除した。
嵌頓腸管を確認するとRichter型と完全嵌頓の中間程度であった。
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その他所見:
- 少量腹水あり。
症例23の動画解説
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。

横断像で、大腿静脈を圧迫する所見があることにより、大腿ヘルニアと予測することができると思います。(最終的には、鼠径靱帯とヘルニア門の位置関係で確認しますが…)
※ 胆嚢は存在するので、副所見の胆摘後は記載ミスだと思います…
アウトプットありがとうございます。
>横断像で、大腿静脈を圧迫する所見があることにより、大腿ヘルニアと予測することができると思います。
そうなんですね、確かに圧排されています。
> 胆嚢は存在するので、副所見の胆摘後は記載ミスだと思います…
思い切り胆嚢ありますね。どこをどう見たのか・・・。
修正しました。ありがとうございます。
閉塞部位は確認できましたが鼠径ヘルニアか大腿ヘルニアかがなかなか自信持てませんね
アウトプットありがとうございます。
大腿ヘルニアは上下にスクロールした際に、大腿動静脈と伴走すると大雑把に覚えましょう。
鼠径部のヘルニアの嵌頓の診断にとどまらず、鼠径ヘルニアと大腿ヘルニアを鑑別できる脳外科医かっこいいです!
いつもありがとうございます。胆嚢がやや大きく見えたのですが、このくらいの大きさは正常範囲なのでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
微妙なところですね。胆嚢炎を疑う所見があれば、胆嚢炎でもよいくらいの腫大がありますね。
フォローでずっと大きい方もおられるので、過去画像があればそれとの比較ですね。
鼠径部のヘルニアは鑑別方法を忘れたあたりに出会い、まあいいか・・・と思ってしまうことが多いです。
(特に肝外)胆管が拡張しているように見えるのですがこれは有意な所見でしょうか?
アウトプットありがとうございます。
>鼠径部のヘルニアは鑑別方法を忘れたあたりに出会い、まあいいか・・・と思ってしまうことが多いです。
鼠径ヘルニアは、単に鼠径ヘルニアでもいいかもしれませんが、大腿ヘルニアは指摘した方がいいですね。
>(特に肝外)胆管が拡張しているように見えるのですがこれは有意な所見でしょうか?
そうですね。肝内胆管〜総胆管の拡張を認めており、指摘するべき所見ですね。
総胆管内にやや高吸収に見える部位があり、総胆管結石があるのかもしれません。
いつもとても勉強になる症例をありがとうございます。
虚血の有無について質問なのですが、造影効果が低下しているかどうか、いつも迷ってしまいます…。今回も嵌頓している腸管の造影効果が少し落ちているように見えてしまいました。
判断するポイントなど、ありませんでしょうか。
アウトプットありがとうございます。
腸管虚血の有無についての判断は明瞭な境界がないので非常に難しいですね。
単純CTと造影CTの比較
ダイナミック撮影されていれば早期相と平衡相の比較
などで判断をします。
さらに造影CTにおいても、腸閉塞の影響を受けていない腸管と、影響を受けている腸管との比較をします。
今回の症例は嵌頓している腸管には造影効果が見られますので、腸管虚血は現状なしと考えます。
が、嵌頓していない拡張している腸管と比較すると若干造影効果が弱いような印象もあります。
そのため腸管虚血ありと判断してもよいかもしれません。
最初に申し上げたように明瞭な境界がないので、上記の比較で明らかな差がないと断定は難しいのが腸管虚血です。
いずれにせよ、腸管虚血の有無にかかわらず、整復が見込めない腸閉塞は速やかに外科にコンサルトすることが重要ですね。
明瞭な解答になっておらず申し訳ありませんが、それが腸管虚血です(°°;)
とりあえず、ヘルニアを見逃さなかったのでよかったです。鼠径ヘルニア•大腿ヘルニアの区別はもう一度頭にいれないといけないです(・・;)
アウトプットありがとうございます。
>とりあえず、ヘルニアを見逃さなかったのでよかったです
外ヘルニアの部位を同定していただけたようでよかったです。
>鼠径ヘルニア•大腿ヘルニアの区別はもう一度頭にいれないといけないです(・・;)
これについては専門でない限り余裕があればでよいと思いますが、鑑別できたらコンサルト先や紹介先の外科の先生から一目置かれるようになりますね。