
症例30
【症例】80歳代男性
【主訴】臍周囲痛
【現病歴】約6時間前から臍下部痛が出現。次第に腹部膨隆・背部痛も生じてきたため来院。背部痛の場所は変化しない。
【既往歴】腎盂腎炎
【身体所見】意識清明、BT 36.3℃、BP 131/87mmHg、P 87bpm、SpO2 100%(RA)、臍周囲自発痛・圧痛あり、反跳痛なし、自発痛部位に一致して板状硬あり、腹部膨隆、腸雑音減弱、CVA tenderness両側陰性。
【データ】WBC 19600、CRP 0.33
画像はこちら
右腹部に腸間膜の浮腫を伴った腸管群を認めています。
もう大丈夫ですよね。
closed loopの形成が疑われますね。
さらに今回は、単純CTなのに小腸壁は高吸収であり、腸管壊死による出血性梗塞を示唆する所見と言えます。
直腸膀胱窩 (Douglas窩)腹水は膀胱内の尿よりもやや高吸収であり、血性腹水が疑われます。
単純CTと造影CTを並べると、closed loopを形成している腸管の造影効果はほとんど認めないことがわかります。
またヘルニア門と思われる部位の近くには、腸間膜の血管および腸管の渦巻き状所見(whirl sign)を認めています。
また冠状断像で今回2箇所のbeak signを同定でき、やはりclosed loopの形成が疑われます。
診断:絞扼性腸閉塞(腸管壊死疑い)
※外科で手術となりました。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~手術記録より抜粋~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
腹腔内には多量の血性腹水と変色した小腸を認めた。
虚血による小腸壊死と診断し、虚血部位を検索することとした。
大網ー後腹膜間に癒着によるバンド形成を認めた。
空腸起始部から約10cmの部位から2mに渡って壊死所見を認めた。
Treitz靱帯を認めず、十二指腸はそのまま下降し、空腸へと続いており、小腸は右半分に存在、Ladd靱帯も認めなかった。
盲腸は右下腹部に存在したが、上行結腸は右背側の後腹膜に固定しておらず、左上腹部に向かって上行していたため、総腸間膜症(nonrotation)と診断した。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
やはり、closed loopを作っていた腸管は壊死に陥っていました。
また血性腹水を認めていたことが確認できます。
その他所見:
- 肝嚢胞あり。
- 腎嚢胞あり。
- 腹水貯留あり。
症例30の動画解説
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。

総腸間膜症と腸回転異常は異なるのでしょうか?
また今回、捻転はなかったということでよろしいでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
>総腸間膜症と腸回転異常は異なるのでしょうか?
腸回転異常の一つに総腸間膜症があるようですね。
参考
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsma1939/27/5/27_5_445/_pdf
>また今回、捻転はなかったということでよろしいでしょうか?
捻転はなかったようです。
回転異常に気が付きませんでした。
外科的な処置をする際に血管走行や解剖は大事になってくるはずなので、指摘したいですね。
アウトプットありがとうございます。
そうですね。今回は術中に気づかれた感じですね。
まずは絞扼性腸閉塞の診断が重要ですが、腸回転異常がある場合は捻転を伴うことがあるので、術前に気づくのがベストですね。
やはり繰り返して見てきたのですぐに絞扼性腸閉塞とわかりました
まずはそれがわかることが目標だったので良かったです!
腸回転異常まではわかりませんでしたが違和感を感じていた理由がわかりました
アウトプットありがとうございます。
>やはり繰り返して見てきたのですぐに絞扼性腸閉塞とわかりました
まずはそれがわかることが目標だったので良かったです!
よかったです!
だいぶ地雷(絞扼性腸閉塞)に慣れたと思います。
>腸回転異常まではわかりませんでしたが違和感を感じていた理由がわかりました
そんな場合はSMAとSMVの位置関係に着目してください。
今回もclosed loopというところまでは良いのですが、解説を見たら知ってるはずのものが読み切れておらず、反省です。ありがとうございました。
アウトプットありがとうございます。
>今回もclosed loopというところまでは良いのですが、解説を見たら知ってるはずのものが読み切れておらず、反省です
まずは、closed loopがわかることがこの講座のある意味目標でもありますので、よかったです!
30症例目は卒業試験とも言えそうな症例でしたね。
ブートキャンプのおかげで、絞扼性小腸閉塞と腸管壊死疑いまでは読影しながらすぐに挙げることができました。
ここさえ断言できるようになれば時間を無駄にせずに外科へ紹介できます。
おかげさまで救命例や少腸を切除せずに済む例がわずかながら増やせそうです。
半年間ありがとうございました。
ブートキャンプバンザイ☺
アウトプット&嬉しいお言葉ありがとうございます。
>30症例目は卒業試験とも言えそうな症例でしたね。
ありがとうございます。
これまでの講座の傾向などからも、
「奴は、最後は絶対、きっちり地雷(絞扼性腸閉塞)を置いてくる」
と読んでいた方もおられたかも知れません(^_^;)
>ここさえ断言できるようになれば時間を無駄にせずに外科へ紹介できます。
なかなか難しいこともありますが、「どんな所見があれば怪しいか」は30症例を通してご理解いただけたと思います。
絞扼性腸閉塞疑いと引っかけて、外科に紹介し、結果的に「絞扼性腸閉塞じゃなかった」としても、絞扼性腸閉塞をイレウス疑いで内科入院させるよりは遙かにましです。
>半年間ありがとうございました。
ブートキャンプバンザイ☺
こちらこそありがとうございましたm(_ _)m
丁寧な解説をありがとうございます。少し本題とずれて恐縮ですが、
本症例のバウヒン弁、虫垂、前盲腸動脈 後盲腸動脈の位置について動画解説お願いできませんでしょうか
211/246あたりに細い管腔構造があり、これが虫垂かな?と思ったのですが。。。
不躾なお願いで大変すみません。
アウトプットありがとうございます。
こちらになります。虫垂ははっきりしないと考えます。
絞扼性腸閉塞、
だいぶCTで疑う所見を指摘することができました。
何回も症例を見させてもらっているおかげたと感じました。
非常にありがとうございます。
一つ質問なのですが、
口側の拡張が起きているである小腸の腸管壁かペラペラで見えにくいのですが…
虚血の影響でしょうか?
アウトプットありがとうございます。
無事診断されたようでよかったです。
>口側の拡張が起きているである小腸の腸管壁かペラペラで見えにくい
おっしゃるようにペラペラで見にくく、paper─thin wallと呼ばれる所見と言えます。
正常例でも見られることがありますが動脈血流が途絶えたり、少なくなったときに見られる所見でした。
今回は局所的なので有意なのかは微妙ですが、渦巻き状所見(whirl sign)に上腸間膜動脈も巻き込まれており、その影響なのかもしれません。
……(^_^;)
頑張って復習します!
ア、アウトプットありがとうございます。
最後、絞扼性と診断できなかったですかね・・・
私の出題傾向を知り尽くしておられるのに(違)(^_^;
ラストの問題、これまでに学んだ要素が詰まっていて、解いてて楽しかったです。実際にはいろいろと書き忘れてしまいましたが、所見自体はかなり読み取れていました。中腸回転異常もしっかり指摘できました!
ただ、回転異常が原因で捻転が起きているのかと思ってしまったのですが、捻転ではなかったのですね。。。
アウトプットありがとうございます。
>ラストの問題、これまでに学んだ要素が詰まっていて、解いてて楽しかったです。
楽しんでいただけてよかったです。
>中腸回転異常もしっかり指摘できました!
こちらにも気づかれたようで素晴らしいです。
>回転異常が原因で捻転が起きているのかと思ってしまったのですが、捻転ではなかったのですね。。。
そうですね。回転異常の場合は腸間膜捻転を伴うことはありますが、今回は回転異常が直接の原因ではなく、大網ー後腹膜間に癒着によるバンド形成に腸管が入り込んでいたということでした。
そこまでは画像からはわかりませんが、絞扼性著閉塞の状態であることに気づければOKです。